箸使い
Last Update:2000/1.26
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 略式の箸
 食事作法は、「箸に始まり箸に終わる」といわれるように、美しい箸使いが基本となる。多くの人々が会食する冠婚葬祭の「ハレ」の食事の場では、昔から人々が忌みきらう箸使いは「きらい箸」と呼ばれ、してはいけない無作法な扱いとされてきた。今も約七十の箸使いのタブーが伝えられている。

 箸使いの基本は、二本両方を動かすのではなく、下の箸を固定して上の箸だけを自由自在に動かして食べ物をはさむ。これは、私たちの祖先が尊い知恵と経験によって生み出し、一千年以上にわたって継承されてきた、最も美しく機能的な箸使いである。また「箸先五分、長くて一寸」といわれ、あまり箸先を汚さずに食べることがマナーとされている。

 箸を取る時は、箸の中ほどを上から右手で取り、左手を下から添え、右手に持ち直す、いわゆる三拍子が正式である。

 「箸使いを見れば人柄がわかる」といわれ、日本の社会では、箸の持ち方、使い方は、言葉使いや身だしなみとならんで、人柄が評価される大切な要素の一つである。その上、その人をしつけた親や家庭、あるいは会社の評価にまでつながることが多い事も確かである。

■ 箸の機能と種類
[基本機能]
・はさむ
・つまむ
・支える
・運ぶ‥
[特殊機能]
・切る
・裂く
・ほぐす
・はがす
・押さえる
・くるむ
・すくう
・のせる‥

[種   類]
のし箸 もともとは武士が出陣時に神に捧げた供物の上げ下げに使った箸が、江戸末期に婚礼時や、箸取りの儀式に使われるようになったもの。
菜 箸 精進もの、煮物などを調理するときに使う箸。
真魚箸 肉や魚を料理するときに使う箸。
盛りつけ箸 盛りつけ専用の箸。和菓子職人はきんとん箸とも呼ぶ。
取り箸 食卓で一緒盛りの食べ物をそれぞれの器に取り分けるときに使う箸。
手元箸 食事をするときに使うその人専用の箸。直接口に運ぶ箸。 日本では他人が口をつけた箸を使うということを極端に嫌う。
これは衛生観念というより、感覚の問題、心の問題だと言われている。
菓子箸 菓子専用の手元箸。黒文字を使う。
火 箸 炭なくしては始まらない茶の湯。炭をつぐ火箸は飛鳥の時代に既に使われていた。
塵 箸 露地の躙口近く、塵穴に立つ青竹は茶事で最初に見る箸。
■それぞれの個人だけが使う箸である手元箸(銘々箸、食事箸、個人箸とも)はどのように選べばよいのか。日常の食生活で使う「ケの箸」は、一般に性別・年齢に応じて寸法・材質・デザインの異なる場合が多く、めいめいが所有する「個人専用食器」となっている。この箸は、「天太先細」の片口箸が使われる。
 長さの決め方は、一咫半(ひとあたはん)という、親指と人差し指を直角にひろげて、それぞれの先端を結んだ長さの1.5倍が、その人の一番 手に合う箸のサイズといわれている。太さと重さについては、器の重さとのバランスによってかなり違ってくるので一概にはいえないが、関西で15g程度、関東以北になると25g程度が平均という。
【塗 箸】
 日本人はすでに縄文時代から漆を使い始めていが、塗箸が登場するのは江戸初期のことである。そこには、白木造りの柳・檜箸の清浄さを大切にする独特の根強い美意識があったといえる。はじめは、大名や武家の間で使用され、やがて江戸・大坂・京都の飲食店や豪商、町人なども使うようになった。
【木 箸】
 紫檀、黒檀などの硬木、あるいは桑・つげ・樺・南天・ひばなどの木箸も愛用されている。ウレタンまたは生漆で艶を出し、色素止めの表面塗装を施したものが多いが、上塗りの全くない素木箸もある。これらの木箸は、塗箸の素地にも使われている。
【竹 箸】
 竹割箸を中心に、丸箸・塗著・菜箸・懐石箸などがある。竹割箸は高級割箸で、鹿児島と熊本が二大産地。大分と京都では竹の特性を生かして、すす竹箸・白竹箸・ひねり箸・合わせ箸などバラエティーに富んだ製品を作っている。京都はまた茶事用の箸の本場である。
【割 箸】
 来客用・営業用として使われるハレとケの兼用の箸である。割箸は、日本人が開発した、「木の文化」にふさわしい箸で、木や竹の割裂性を利用した便利さと清潔さ、さらに木目の美しさをそなえている。しかし、わずか一回の使用で捨てられる宿命にあり、考えようによれば、白木の清浄観を好む日本人の美意識と、日本人の価値観を反映した、最高に贅沢な箸である。
 割箸が最初に登場したのは、江戸・大坂・京都に飲食店が流行した江戸時代中期である。当初は「割りかけ箸」あるいは「引裂箸」と呼ばれる竹の割箸で、江戸の鰻屋で珍重された。本格的な木の割箸は、明治になってからで、明治十年、吉野杉箸の本場、奈良県吉野郡下市町で、寺子屋教師・島本忠雄が吉野杉の割裂性に着目して、丁六型・小判型の割箸を考案したのが割箸時代の幕間けとなった。さらに元禄型・利休型、大正に入ると天削型が考察され、全国に普及していった。この割箸の登場は、日本の食生活の歴史の中で、まさに画期的なことであった。

[割箸の形、五種の呼称]
天 削:
天(頭)の部分を鋭角に削いだもの。高級品。
利 休
利休が考案したという中平両細型、割著は特に「夫婦利休」といい、高級。
元 禄
元禄小判の略。割著「小判」の割れ目に溝をつけて割りやすくした中級品。
小 判
四つの角をとって頭を小判形にし、割れ目を入れたもの。割箸の主流。
丁 六
江戸時代庶民の貨幣の呼称。加工の全くされない大衆箸で、駅弁などに多い。
 一度として、手にしない日のない箸を、私たちは日々の生活を共にする箸に格別の思い入れを持つ日本人の美意識が見えてくる。指先に馴染む温もりと、計算し尽くされた端正な姿。そこには、実用性を追求した末に初めて到達し得た、均衡美の世界がある。
 箸を通じて伝承されてきた、日本人のための食文化を新しい観点から見直し、さらに継承するべき意義を知り、新しい生活の知恵として再生して行くべきである。
 「割箸は森林資源の無駄遣いである」とか「いや割箸こそ森を育てる。人の手の入らない森林は確実に荒廃する」のだとか、割り切れない論争が続いているが、間伐材や端材を利用した国産の割箸生産量は、割箸総生産量のわずか5%ぐらい、残り95%は熱帯雨林を伐採した輸入木材に頼っていると言われている。
 「使い捨てを少しでも減らしたいし、自分の箸を使うと手には慣れているからいただきやすい」と始めたお手元持参。藍染め作務衣の残り布でつくった布袋にゴマ竹のみやこ箸を、持ち歩くようになって 色々なことを知った。なかなか箸の文化は奥深い。

■ お祝いの箸
 日本最古の文献「古事記」には、川上から流れてきた箸が、人の願いを神に橋渡しする小道具として登場する。
 箸は「生命の杖」と言われ、「箸に始まり箸に終わる」といわれるくらい、生活とは切り離すことの出来ない結びつきがある。その中でも特に、人生にとって「おめでたい」行事の祝い膳には、冬枯れの山の中で真っ先に芽を出す、清浄で縁起の良い「柳」で作った白木のお箸を使う。いにしえの人々は、ことのほか、柳の生命力に畏敬の念を感じていたらしく、邪気を払う霊木としてあがめていたという。人生の節目を祝うためには、それにふさわしい箸を選択しているのである。柳の白木箸の長さは性別年齢に関係なく同じ末広がりの八寸(24センチ)、形状は「中太両細」の両口箸とされている。

 食初め(くいぞめ)の儀式は、地方によって「箸初め」(はしぞめ)「箸染」(はしぞろえ)とも言われ、古くは平安時代に始まったらしい。生後100日、あるいは120日にお祝い膳を調えて、親が食べ物を子供の口に含ませ、健康に育ち無事に成長するようにという願いを込める儀式のことで、このときに始めて人は箸に出会うことになる。

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