低身長

〜 手遅れにならないために 〜



@ あとで後悔させないために
"背が低くても健康であればいいじゃないか""親の背が低いのでしかたないわ""そのうち伸びるよ"と周りの言い分はそれぞれあると思います。しかし、ちょっと待って下さい。そのまま放っておくと、あとで子ども本人がとっても後悔することにならないとも限りません。背が低いということは、熱が出たりお腹が痛かったりといった症状と違って、急を要せず、通常、病気としては認識されません。それだけに、ついつい病院へ連れて行くことが遅くなり、手遅れになってしまいがちです。子ども本人は背が低いことで悩んでいても、"背が低いから病院に連れていって"とはまず言わないでしょう。背が伸びない原因はいろいろあり、運良く生命に関わるような病気はなかったとしても、思春期に入って、自分の体のことが色々気になりだしてくると、人より背が低いということは、時に非常に重大な悩みになってきます。しかし、その時には骨がもうほぼ固まってしまっており、どうすることもできません。両親や祖父母あるいは学校の先生であるあなたが、もっと早く気付いて、病院に連れていってあげなければいけなかったのです。私は最近、私のホームページを見た成人の方から次のような電子メールを受け取り、胸を痛めました。「はじめまして、どうしてもお聞きしたくてメールしてしまいました。下垂体性小人症(成長ホルモンが足らないことによる低身長)についてふれられていますが、やはり二十歳を過ぎた人間にはどうすることもできないのでしょうか? 前に自殺未遂を何回かしてまして、もし、もっと早くこのことを知っていればと悔やんで仕方がありません。どんな些細な事でもいいですから教えて頂くわけにはいきませんか?お願い致します。」M.I.

A どんな場合の低身長が問題ですか?
背が低いといっても、単にクラスで一番前だとか、友達と比べて低いというのではなく、客観的にどの程度低いのかを評価しなければいけません。「標準成長曲線」(日本人の子どもの身長、体重を調べて、年齢ごとにその平均値をつないでいったもの)を使うと、自分の身長が客観的によくわかります。標準成長曲線には5本の線が引かれており、真中の線が平均身長です。その曲線上、現在の年齢と身長が交差するところに点を打っていって下さい。その点が曲線の一番下の−2SD(SDとは標準偏差のこと)の線よりさらに下にあるとき、客観的に背が低いといえます。−2SDの曲線は大体、50人中一番小さい人の身長です。次に、過去の身長とその時の年齢が交差するところに点をいくつか打ってつないでいくと、自分の成長曲線が出来上がります。その成長曲線がだんだん横に寝てきたときも、身長の伸びが悪いと判断します。1年間の身長の伸びが4cm以下であると要注意です。

B 背が伸びない原因は何ですか?
原因として最も多いものは、両親からの遺伝生まれつきによるもの、いわゆる晩熟(おくて)によるもの、未熟児で生まれたことによる低身長です。しかし、これらは他の原因がないということによって初めて結論付けられます。成長ホルモンや甲状腺ホルモンが不足していることによる低身長は、原因が明らかで、治療も確立されています。男性ホルモンや女性ホルモンが早くから出すぎている場合、最初はむしろ背が高くなりますが、伸びが早くに止まってしまい、結果的に低身長になります。女性におこるターナー症候群(性染色体の異常のために、卵巣の発達が悪く、初潮や乳腺の発達がありません。)は約2000人に1人と考えられ、比較的頻度の高いものです。他に、軟骨形成不全症(生まれつきの骨の病気で、特に手足が短くなります。)、プラダーウィリー症候群(乳幼児期の筋緊張の低下、高度の肥満、思春期の遅延などを伴います。)、次のCで述べるような他の重い病気、食事制限などによる栄養不良、愛情を十分に受けていないことや極度なストレス、いじめなどの精神的な原因でも背が伸びなくなることがあります。

C 重大な病気のために背が伸びないことがあります!
背が伸びない原因として、単に身長だけではなく、生命に影響を及ぼす病気が隠れていることがあります。脳腫瘍などのガンや慢性の心臓、腎臓、肝臓病などです。また、甲状腺機能低下症など治療せずにいると、知能の発達に影響を及ぼす病気であることもあります。もし、これらの病気が原因で背が伸びないならば、一刻の猶予もありません。直ちに治療を開始する必要があります。

D 背が伸びなくて小児科を受診されたら何をしますか?
最初に低身長の原因の手がかりとするために、両親の身長や、生まれたときの状況や、今までかかった病気、使った薬のことなどについて詳しく話を聞き、成長曲線を描いてもらいます。それから、体全体を診察します。それらの問診、成長曲線、診察だけである程度、原因の見当をつけたり、あるいは逆に特に心配ないことがわかる場合もあります。低身長の原因をさらに詳しく調べる必要のあるときは、以下のような検査をします。

1、一般的な血液検査尿検査をして、肝臓、腎臓などの病気が隠れていないか、栄養の障害がないかどうかなどを調べます。

2、手の骨のレントゲンをとって、実際の年齢と骨の年齢(体の年齢)に差があるかどうか調べます。

3、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、性ホルモンなどホルモンに関係した検査をします。成長ホルモンの検査は1回の採血だけでは詳しくわかりません。そこで、体を刺激して成長ホルモンを出す作用のあるお薬をのんでもらったり、点滴したりして、2時間の間、30分毎に計5回採血して成長ホルモンの出ぐあいを調べます。体に5回も針を刺すのは大変ですから、プラスチックの針を血管に入れておき、そこから採血しますので、痛い思いは1回だけです。

4、成長ホルモンの出が悪い場合は、それが脳腫瘍が原因ではないことを確かめるために、頭のMRIまたはCTを撮ります。

5、女性の場合でターナー症候群の疑いがある場合は、血液を用いて染色体検査を行ないます。

E 検査に何回くらいの受診が必要ですか?
1回の受診で、問題なしとわかることもあります。成長ホルモンの出ぐあいまで詳しく調べる場合は、最低2回の受診が必要です。この場合は1回最低2時間の検査時間が必要です。さらに詳しい検査に進む場合は、当然、それに応じた時間がかかります。

F どれくらいの費用がかかりますか?
人それぞれでいろんな場合があり一概には言いにくいのですが、成長ホルモンの詳しい検査までした場合、2回の受診で、健康保険を使って、計約1万5千円の自己負担となります。

G 低身長の原因がわかった場合の治療は?
低身長の原因となる病気が発見されたなら、もちろんその治療が必要です。極端な栄養障害や精神的なストレスが原因とわかれば、何とかそれを改善するように指導します。甲状腺ホルモンが足らない場合は、それをのみ薬として補います。成長ホルモンが足らなければ、それを自己注射によって補います。軟骨形成不全症、ターナー症候群、プラダーウィリー症候群、慢性腎不全による低身長にも成長ホルモンが有効です。いずれも早期発見、早期治療が大切なことは言うまでもありません。

H 成長ホルモンによる治療の実際は?
成長ホルモンによる治療は近年めざましく進歩しました。成長ホルモンは以前は人の体から取っていたのですが、今は、純粋で安全なホルモンを人工的に作ることができるようになりました。そのホルモンを原則として週6〜7日、寝る前に自分で、または保護者によって皮下注射してもらいます。注射と聞いて最初は抵抗があるかもしれませんが、長さ5mm程度の糸のように細い針で、ペンのような形のとても使いやすく設計された注射器を使います。(一度、実物を見ていただくのが一番よいでしょう。)実際のやり方は、始める前に懇切丁寧に教えますから、誰でもすぐにできるようになり、心配いりません。4歳くらいの子どもでもしていますが、注射が痛くて治療を止めた人は、私の経験では一人もおりません。また、体調が悪い時や旅行に行く時など数日間、注射を止めても何の問題もありません。もちろん、治療が他の日常生活に影響を及ばすこともありません。

I 成長ホルモン治療にかかる費用と通院回数は?
現在のところ、一定の基準を満たしていると、治療費の大部分が公費によってカバーされます。場合によっては健康保険を使っての治療となり、実質いくら自己負担があるかは、各人の状況や加入している健康保険によって異なります。治療が始まって最初のうちは、1ヶ月に1回通院してもらいますが、最終的には年に3回、春、夏、冬の休み中に検査を受けに来ていただくだけでよくなります。ただし、保護者の方には原則として1ヶ月に1度、成長ホルモンを取りに来てもらい、治療の様子を報告していただきます。

J 成長ホルモンによる治療で注意することは何ですか?
治療を開始すると、最初の1〜2年で身長がぐーと伸びて正常の人に追いつこうとしますが、3年目以降は徐々に伸び率が落ち、正常の人と同じ伸び率を保とうとするのが一般的です。したがって、最初にあまりにも大きな差がありますと、最初の約2年間では差をうめることができないということになります。ですから、できるだけ早くからの治療が大切なのです。治療を開始してしばらくすると、治療を怠けたり忘れたりしがちになってきますが、最後まで根気よく治療を続けましょう。成長ホルモンの治療は、抗生剤や痛み止めのように外から異物を入れる治療と違って、もともと足らないものを生理的に補うという治療ですので、副作用はほとんどないはずです。しかし、まれに副作用も起こりえますので、おかしいなと思ったらすぐに主治医に連絡することです。それと1年に3回程度の検査を必ず受けましょう。

K 悩む前に相談して下さい。
恥ずかしがる必要は全くありません。少しでも背が低いと思われたら、遠慮なく小児科外来へご相談ください。背が低いということは、周りの大人が考えている以上に本人にとって深刻なことがあります。実際より幼く扱われていたり、幼稚園や学校で友達と対等に競技をしたり遊んだりできず、劣等感を抱いているかもしれません。いじめの対象になっていたりするとなおさらです。病院での検査によって原因がわかる場合もあれば、何も異常がないとわかる場合もあります。もし、治療できる病気がある場合は、早期でないと十分な治療効果が得られません。一方、特に検査をしなくても診察だけで、「特に心配いりません」と言ってあげられる場合もたくさんあります。そのときはあまりくよくよ考えずに、バランスのとれた食事と適度な運動と十分な睡眠をとり、背が伸びるのを待ってください。最初の検査だけでは、異常があってもはっきりしない場合がありますので、半年経っても思ったように伸びなければ、再度、ご相談ください。低身長の悩みや不安の解消には、検査で異常が無いことを証明してあげるだけではなく、医師や看護婦、栄養士などの前向きな助言も大切です。最後にもう一度、子どもの低身長について、大切なことを整理しておきます。
★低身長の陰には生命を脅かす重大な病気が隠れていることがあります。

★現在の背が低いだけでなく、急に背が伸びにくくなったときも要注意。

★低身長も他の病気同様、早期発見,、早期治療が大切です。



疾患別特集 TOP