窯場の一部                                     作陶場の一部

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窯焚きジイサン  稻葉 夢庵
窯焚きバアサン  稻葉 一幸

◎…◎ トム爺さんのもの書き帖から ◎…◎ 

      深い哀しみと懐かしみをこめて
                 『私家版ペット歳時記』 連載第23回

         

                                 稻 葉  勤 著
   
 「私家版ペット歳時記」は、私達夫婦が新婚生活の第7日目から、約半世紀にもわたって、ずっと関って来た犬や猫、そして鳥達、魚達とのことを書き綴った「本記」と、その後に繋がる「外伝」、「補遺」、「拾遺」とでなりたっています。夢だけを喰って生きていた青臭い文学青年だったころから、私達ももう歳を取ってしまったから、この辺で動物達とのお付き合いもオシマイにしよう、そう思い、そう念じながらも、あいも変わらずに続いている彼らとの生活を描いた文章です。文筆の世界を捨て、窯焚きジイサンになった今でも、これだけは、筆を置くことなく、書き進めているのです。
 「本記」とは、30年も続いた犬や猫たちとの生活に、終止符を打ち、これからは2人だけで気軽に旅行の出来るような毎日を送りたいと、これが最後の飼い猫と決めたチロ猫が、この世を去るまでのエピソードを。
 「外伝」とは、それから1年ほどたって、我が家の裏庭に住みついた3匹の野良猫を。「補遺」は、前回までの文章にも、時々出て来たユウタロウと、その母猫「コト」のことを、「拾遺」は、この山にすむようになってから、ユウタロウの血を引く外猫達の、てんやわんやの話を綴っています。
 中でも、私達の人生に強い影響を与え、強い印象を遺したコトとユウタロウを書いた「補遺」が、一番思索的で、愛と生命とはいかなるものかを感じさせてくれるものだと考えています。
 この文章は四十代も後半になって、突然、一人息子を事故死させ、それ以来、立ち直れずにいるかつての同僚に宛てた手紙形式で書かれています。

     第二十三章 



 この二枚の写真も以前掲載したことがあるかもしれませんし、このページの下から開くことの出来るトム爺とユキ婆が可愛がった猫たちのページにでているかもしれません。しかし何故か、この欄に載せたいのです。どういう訳でしょうか。多分、人間でも猫でも血筋は連綿と続く、そのことを蔭ながら言いたいのです。
 コトの子供のユウタロウ、そしてその子供のチャ―コウそしてその子なのですから、コトから見れば曾孫に当たります。
 しかし、私達夫婦には子供に恵まれませんでした。この手紙形式で書き綴っている方も、やはりたった一人の子供に事故死されて、結局は私達同様に血筋が絶えてしまうのです。
 血筋が絶える。考えれば、全て無に帰してしまうのですから、背筋がぞっとするほど悲しいことなのです。

  
  コトネコさんの真似をして、母猫の両側に身体を貼りつけるようにして、首を外へ突き出した仔猫どもは、鼻先を通り過ぎて行くけたたましい自動車の音と、その大きさにビックリして顔を引っ込め、逃げ腰になりましたが、母猫の動じない態度に安心したのか、また首を前に延ばして前の姿勢に戻りました。コトはその姿勢のまま動きません。何分かが立ちました。その間、私達人間にとっても強烈な振動と騒音である大型ダンプをも含めて、およそ10台も往復したでしょうか。コトはまだ動きませんでした。仔猫の様子が変わりはじめました。自動車というとてつもなく大きくて、うるさい音をまき散らして早く走る物に、平気になったとは言えないまでも、慣れて来たのでしょう、屁っぴり腰が、いかにも動き出したいようなムズムズ腰に変わって来ていました。それでもまだ、コトは動きません。また5台くらい走り過ぎました。 

 やがて、コトは身体を10センチほど前に乗り出しました。多分、首まで木戸の外に出たと思います。仔猫も真似をして前に身体をずり出しました。コトの背筋の動きで、首をゆっくりと左右に廻して、道の様子をうかがっているのが判ります。仔猫達の身体も母猫の真似をしているように見えます。耳を澄ませている私達にも、間が悪く、車の接近して来る音が響いて来ました。コトはほんの少し首を引っ込めました。仔猫も真似をして引っ込めます。その車が通り過ぎて行きますと、コトはまた首を前に突き出しました。さっきと同じように、首をゆっくりと左右にしているようです。仔猫も真似をしています。また、車が来なければいい、そう願っている私達の耳に聞こえるのは、隣家のテレビの音だけでした。コトの身体がなめらかに動き、尻尾の先まで木戸の外へと消えました。つられて仔猫も木戸の向うへ消えて行ったのでした。

 それからの40分間、私達はもう帰って来るか、まだなのかと、車の音が聞こえて来る度に身体を強張らせて、表通りで、我が家の前で、急ブレーキの音がするのではないかと、木戸の下の隙間に、彼等の姿が現われるのを待って、気が気ではありませんでした。その時でした。不意に、猫くぐりから台所に跳び上がって来る足音が響きました。今まで十指に余るほど、猫や犬を飼って来た私達ではありますが、この時ほど神経を摺り減らす思いをしたことはありませんでした。

 「お~や、コトちゃん、偉いですねえ。よく子供達を道の向う側へ探検に連れて行って、無事に帰って来ましたねえ。車には、ヨクヨク気をつけるよう、子供達にしっかりと教えるんですよ。ご褒美に、特別に美味しいもの、オヤツに上げましょうねえ」

 家内は浮き立ったような声でそう言うと、今流行りの歌をハミングしながら、冷蔵庫の扉を猫のために開けていました。多分、彼等は道の向うをほんの少し探検し、再び道路を横断して、表の庭の木戸の下を潜って帰って来たのでしょう。なに事も無かったように、それぞれの餌皿に首を突っ込んでいる猫どもの姿を見ていますと、さっきまでの気のもみようが馬鹿馬鹿しく、嘘のように、猫どもの顔を見た途端に平常心に戻れるのが不思議でなりませんでした。

 家内がふと「まるで、もし、私達に息子でもいて、その子が大きくなって、一人前に免許を取って、その子供がこの家から自動車かバイクを運転して出て行くなんてこと考えたら、もしかすると、こんなものじゃないでしょうね。今帰って来るか、今帰るか、何処かで事故を起こしたんではあるまいかと、ウロウロ、ソワソワして、なにも手に付かずに待っているでしょうね。猫の身を案じるのも、子供の身を案じるのも、可愛いものを案じる心境は、同じものなのかもしれないわね」そう言いました。

 家内はなにか事に直面すると直ぐ、もし私達に子供がいたらと、その時その時の状況を「タラ・レバ」で推測して、仮想体験したような物言いにふけるのが癖になっているのです。ま、私とて考えることはまったく同じではあり、あるいは「もし子供がいたら」と言う思いは私のほうが強いかもしれませんが、家内のほうが私よりも言い出しが早いので、いつも抑えるほうにまわってしまうのかもしれません。その時も「息子と飼い猫とでは、比較にならないほど違うんじゃないかな。飼い猫はあくまでも飼い猫、息子とは当然のことながら血が繋がっているんだから、猫のように客観的に突き放して眺められるかどうか。いくら可愛いとは言っても、相手が猫では、どこか醒めた目で見ているところがあるから。ま、たとえとしてはお前の言う通りだろうけれども、これが自分の血をわけた子供だったとしたら、今俺達が経験した何百倍、何千倍もの神経の使いようだろうよ。しかし、その反面、人間同士ならば言葉で自分の意思や気持ちを相手に伝達できるけれど、猫には言い聞かせることが出来ないから、同じことかな」そう受けて答えたことを、よく覚えています。

 何故、私達夫婦がアナタから年賀欠礼の葉書を受け取った時、多分、他の人以上のショックを受け、同情の念で暫くの間、呆然としていたのか、また、それ以来ずっと、賀状は使われず「寒中お見舞い」という葉書が新年になると送られて来る度に、簡素な短い文章の中に、アナタの未だに引き摺っておられる無念な思いが感じられて、それがまた私達が同じように引き摺っている不安感に結びついて連鎖反応を引き起こし、一年中、なにかあるたびごとに何十回となく、今ごろどうしておられるのだろうかと、アナタのことが思い出され、今年もまたまた賀状の時期を迎え、配達された賀状の束の中に「寒中お見舞い申し上げます」を見出した時、矢も盾もたまらず、差し出がましく失礼であることは重々承知していながら、このような手紙を書かずにはいられなくなってしまったのでした。

 コトネコさんは毎日、外へ出る度に同じことを繰り返していました。仔猫達もそれが何を意味するのか、段々と呑み込んだようで、母猫よりも先に、木戸の下に腹ばいになって、外へ首を突き出すことも見受けられるようになったのでした。                                                                                      
      (つづく)

          読み物の次は見る物です。『ペット歳時記』に現れて来るペットたちの写真は、この下から!
                ここから入るとトム爺とユキ婆の可愛がったペット達が現れますよ。Grandpa Tom and Grandma Yuki's lovely pets
  

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現在「日本各地の陶芸について」を十年も書き続けています。都道府県別に、その地に存在した古窯やその当時に活躍し方々を紹介し、付録として、その時、その時に浮かんだ陶芸についての話題を、なんでもかんでも書いています。現在は四国各県編を書いています。日本各地の古窯についても知ることは重要ですが、陶芸に関する専門的な知識や、ゴシップなどを書いている「付録」のほうが面白いですよ。現在は茶器の中でも「大名物」と言われているお茶道具について書いています。

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