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生活の徒然を詩にしたためてみました。生きてきた証です。
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| 雪浄土 | 竹の話 |
| 久万山五神太鼓 | しがらみ |
| 時(とき) | 山羊の乳 |
| 畦草刈 | 田植え |
| 茶摘み | 月下美人 |
| 返り花 | 鳥になった人 |
| 麦 笛 | 韮(にら)の花 |
韮(にら)の花
菜園場の隅 嬉しげに 韮(にら)の花が咲いている
細い 肉質の葉を伸ばし 長い茎の先に
真っ白な小さな花が 球状に
線香花火がパチパチ開いたときみたいに
まあるく咲いている
韮の花は
土が痩せているとか 日照りばかりだとか
何にも文句は言わないで咲いている
己が 咲いている事自体が
とても嬉しくてたまらないように咲いている
鍬の柄に両手を乗せて見つめている私
雨が 降り続き その後日照り続きの毎日で畑は固い
ガシッ ガシッ と 鍬をおろすと
土が起こされ 土の匂いで満ち溢れる
「牛糞をやらねば 土が痩せて来たみたい」
ふと
私がいま 生きている証に
天がこの土壌を与えたもうたものだと気付く
土は 母体みたいなもので
命を育み 育てていく力を持っている
命を育み 育てていくという事は
生を受けいやがうえにも 死ぬまでの間
日 一刻 一刻と 時が 過ぎ行くその時を
マイナスをプラスに換える力を持っている
先人が築いてくれた 苔むした石垣
土をいじって生きている手応えを 確かめながら 生きていこう
立秋今宵
白い花咲く韮摘んで 味噌仕立ての韮粥で
しんから ほかほか あったまりましょうか
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麦 笛
つかまえて やろうと
一歩踏み出せば 一歩退く
振り捨てようと
一歩下がれば 一歩追い縋る
おまえは 宿り木のように私の体に寄生し
私は 心も、気力も、肉体をも、おまえの虜
像頭山から四方を見れば
夜来の雨で乱れ倒れた黄金色の麦畑
緑の草原 鏡のごとく水田
升目に区切られた一角に盛り上がる麦畑
じいっ じいっ と松蝉がなく
幼い頃 父に叱られて
すねて 泣いて家を走り出た
逢う魔ノ時 逢う魔カ時
一人とぼとぼ小道を歩き
どこへ行くでもなし どこに行くでもなし
誰ぞ彼 たそかれ
彼は誰 かわたれ
たっぷり暮れてきたあたり
暮れ残った麦畑 黄金色した麦の穂の海
石垣にもたれて しゃがみこむ
このちいさな体 もっともっと小さくなーれ
小さくなって 消えてしまえ
遠くの灯りが涙で潤む
麦の穂で 麦笛作り
そうっと そうっ と鳴らしてみたら
ブオッ ブオッ ブオッ と鳴咽の声が
笛から漏れた
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鳥になった人
雪が三日も降り続いている
野原 山 里も 真っ白
鳥は忽ち(たちまち)餓えて 一面の雪原を
ちちちと 餌を求めてさまよう
たくわえを知らぬ鳥
胃袋という袋しか持たぬため
胃袋が一杯になれば それ以上の欲は持たぬ
白い手甲 脚半 白衣に遍路笠
歩き遍路が参る
背中に大きく「南無大師遍照金剛」
同行二人のお杖をつき ひたすら歩く
お杖の先 太くちび減る
雨に打たれ 雪にたたかれ 風に舞う
太陽の暖かさ 風のそよぎ
野に伏し 洞窟に寝て 軒を借りて休む
遍路宿の褥の暖かさ 伸びやかさ
歩き遍路の部屋 床の間に花を活け
疲れを癒すべき気配りがなされている
「死にたくて野垂れ死にしたくて始めた遍路旅なのにこれで逆打ち
六度目です」
阿波焼山寺で出会った遍路の言葉
「私四十四番大宝寺でお手伝いしています
納経所にこられたらぜひお声を掛けてね」
と 言うと 淋しげな目をして
「はい」と答えられた
一人 二人 と歩き遍路が参ってこられる
鳥が羽ばたく事を止めぬように
歩き遍路は歩き続ける
鳥になって羽ばたき続ける
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返り花
あまい眠りに身をゆだねようと
糸の切れた傀儡(かいらい)のように 白い褥(しとね)に仰臥すれども
睡魔は逃げて
私の頭を
手を
足を
地の底から 引っ張るものがいる
床を透かし 褥を透かし
彼岸花のような手が 何本も 何本も
私のからだを 地の底へと引っ張る
私のからだは 海の底へ沈むみたいに
奈落の底へと沈んで行く
睡魔を呼ぼうと 瞼閉じても
瞼の裏では まなこくるくると動き
校庭の 桜の 白い返り花を見つめている
数年振りに大きな台風が来て
三日三晩 大風が吹きまくった
桜は きっと冬の木枯らしに吹かれたのだ
と 思ったらしく
春が来たのだと思い込み あわてて白い花を咲かせてしまった
柿の葉は赤く熟れ 団栗は重たく実り
エメラルド色の栴檀(せんだん)実が落ち始めたというのに
馬鹿正直に桜は花を咲かせてしまった
己が 身を 心をすり減らし組み敷かれ
男に尽くす事しか知らぬ女
いつも道の端を 俯いて小走りに行く女が
いきなり 日向に飛び出してしまった時みたいに
恥ずかしそうに 打ち震えている
白い 返り花
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月下美人
夜 爪を切ると親の死に目に会えないよ
と 昔から言われている
何故か 無性に爪を切りたくなる時
上がり框(かまち)に腰を下ろし
右足の親指の爪から順番に切る
「夜爪を切ると親の死に目に会えないよ」
もう一人の私が耳元で囁く
長く伸びた爪が気になって仕方ないのだ
突然 鼻腔をくすぐる高貴な香り
顔を上げれば ゆらゆらと
月下美人が咲き始めていた
黄昏時 蕾は臨月の母体のように
丸く 丸く 膨らみ始める
蕾の角度 九十度
・・・子宮口が一指開き始めましたよ・・・
と 産科医の声
月下美人は重なり合った花弁を しなやかに
ほぐすように開き始める
芳(かぐわ)しい香りの中
微かに微かに震えながら花は開き続ける
夜 十時 遂に花は咲き切った
花の角度は六十度 満身に力込め
白孔雀が誇り高く開いた羽のような
花弁の重なり 雪のような白色
花の中卵管の形の雌蕊
雌蕊を囲む数十本の雄蕊の群れ
息張る花粉 煌く花粉
雌蕊の先には丸く小さな穴が開いている
月下美人の花の中の小宇宙
果てしなく遠い 砂漠の暑い夏の夜
青白い月下のした
「オギャー」
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茶摘み
空は見事に晴れ渡り
雲ひとつないコバルトブルー
山の稜線 くっきり見え
じーら じーら 松蝉がなく
さあ 今日はお茶摘み日和
あねさん被りに麦わら帽子
地下足袋はいて 茶畑へ
つんつんつん 空挿す新芽
茶畝みごとに 新緑の新茶
茶摘み籠引き寄せ 足元へ置いて
つんつんつん 摘み取る新茶
見渡せば 里のあちこち 茶摘みの姿
莚(むしろ)に広げる 生茶の小山
生茶のにおいが かぐわしい
指先すでに緑に染まる
胸の中まで緑に染まる
摘んだ生茶をお釜にいれて 薪を燃やす
ばりりばりばり 生茶が煎れる
まんべんなく まぜくり返して
ばりりばりばり 茶の香がのぼる
莚に広げ両手で 揉み込む
体をあずけて ぐいぐいぐいぐい
空はかんかんお茶干し日和
狭庭一杯莚を広げ 揉んだ茶の葉を広げ干す
揉んでは広げ 揉んでは広げる
松蝉 じーら じーら じーら
竹の話
真っ青なる 竹の林は
雨降れば 雫たらして 雨に泣き
風吹けば 身打ちふるわせて 風に泣く
山の木は年毎に・・・年輪を刻み込んでゆく
竹は生え出て すぐに一生の節を刻み込む
黄色の菜の花暮れ残る夕暮れ時
遠くに一つの灯りが見える
灯りはだんだん 近づいて
「嫁見よう!嫁見よ」
「嫁見よう!嫁見よ」
竹やぶ茂る小道のほとり
紋付袴の仲人先頭に
提灯つけての花嫁行列
箪笥 長持ち 下下駄 ミシン
たらいにしめた竹のたがの青さ
純白の角隠し 重たげに頭垂れ
花嫁御陵は手をひかれ
土佐の国からお輿入れ
うつむいたそのうなじの白く美しかったこと
青い風吹く竹やぶを
通るたんびに思い出す
蛍袋が 二つ三つ思い出含み咲き染むる
「嫁見よう!嫁よ・・・・・」
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雪浄土
しんしんしん 雪が降る しんしんしん 降る雪は
草の穂綿が風に舞うように・・・雪が・・・
アスファルトの道路はしっとり濡れ
降っても 降っても 溶けてゆく
降っても 降っても 積もらない
冬枯れの川岸に大きな乳銀杏の樹が立つ
どっしりと大地に根を張り 大きな根が大地を鷲づかむ
ゴツゴツと象の肌した大銀杏は
巨大な乳房を幾つも幾つもドローンと垂らしている
雪は すべて葉を落ち尽くした丸裸の銀杏の樹に
ふわふわ ふわふわ 降りかかる
梢をかいくぐり 枝をかいくぐり 地に落つ 地に積もる
手に受ければ瞬く間に溶けていく
枝にかかり 枝に積もり 枝を覆いつくす
枝は重たく垂れてゆく
冷たい白い雪が銀杏の樹を包み込む
小さな祠の絵馬に書かれたかなの文字
「わたしはおちちがでないのでこのいちょうのきの
かわをせんじてのんだらよくおちちがでるように
なりました」
鬼子母神に子を攫(さら)われ 攫われた子を慕って
天に向かって手を差し延べたまま 乳房が大きく張り詰めたまま
女は樹になった 大乳銀杏の樹になった
赤子の飲み残したる乳を茶碗に搾る
「今度 足りない時まで預かっておいて下さい」と・・・
そっと 南天の木の本へ乳を零して預ける
白い雪が溶けるように
真っ白い乳は土に消え 雪は降り積む
仰ぎ見る天は雪のみ 暮雪のみ
白々と 白々と 雪浄土
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久万山五神太鼓
ゆうべ 鬼を見た
夜 更けてのち 三島神社の境内がやけに明るい
そっと覗きに行った所
あかあか 篝火(かがりび)が燃えていた
大杉の木立の中に身をひそめ 息を殺して見つめていた
半裸の鬼たち大きな太鼓をかついで来た
太鼓は3基 鬼は去り 篝火ゆらゆら 辺りはしんと
突然 白い鬼一匹躍り出て 大太鼓をたたきはじめた
髪おどろ 天に鋭くばちを差し上げて
どんどこどんどこ どんどこどん
どんどこどんどこ どんどこどん
赤鬼 青鬼 茶色の鬼らが
五ひきの鬼たち かわりばんこに太鼓をたたく
辺りを鋭く警戒しながら どんどこどんどこ太鼓をたたく
雨よ降れ降れ 雨よ降れ
五穀豊饒 五穀豊饒
境内一杯激しく飛び交う鬼の影
総身毛むくじゃらの鬼たちが
じっと辺りを見据えて 太鼓をたたく
腕の筋肉がおどり 胸の筋肉が揺れる
人はいかに生活をしていても
心の中に鬼を住まわし
心の中の鬼により 他人事はごまかしおおせても
己自身はごまかし切れない
逃げられない
やがて 篝火は消え 鬼たちは去り
東の空が白んできたわ・・・
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しがらみ
鬼にさらわれた娘は
生まれた子綱を連れて里へ逃げ帰る
大きくなった子綱は
「人を食いたくてたまらぬので殺してくれ」と言う
母が「私を食え」と言うと
「母ばかりでなく村人みんなを食ってしまうかもしれないから」と
柴を山ほど積み その中に入り
「火をつけて殺してくれ」という
母と爺は 泣く泣く火を点ける
燃された子綱は灰になり
風に吹かれて夕方の蚊になった
竹やぶの竹の切り口や 古びた墓の花立ての
汚れたほんの少しの溜まり水に
ぼうふらは湧く
ぼうふらはピコピコと蠢(うごめ)きつづけ
やがて蚊になり 人を食う
生きている 命のしがらみ
生きていく 性のしがらみ
をとこの手がをんなのからだにからみつき
をとこの心がをんなの心にからみつく
をとこの はく息が をんなのうなじをくすぐる
木枯らし吹き荒ぶ季節ともなれば
五穀豊饒(ごこくほうじょう)を祝うお神楽の太鼓の音が峡になりひびき
今年もまた
神の御前で お神楽という名の
をとことをんなのしがらみが演じられていく
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時(とき)
嬉しい 時は
鍬を持って畑に行こう
土を起こし畑を耕そう
この幸せを胸躍らせて土を起こそう
一粒の種子が芽を出して
何十倍もの実をつけるよう
皆に私の幸せ分け与えてあげよう
悲しい時は
鍬を持って畑に行こう
土を起こし畑を畑を耕そう
何も考えず一生けん命畑を打とう
今はこんなに悲しくても
今日蒔いた種子が芽を出す頃には
今日蒔いた種子が実をつける頃には
きっと きっと 幸せな日を迎えているように
と 信じながら
辛い時も
鍬を下げて畑へ行こう
堅い大地を掘り起こそう
満身の力を込め畑を耕そう
雑草を引き土を篩(ふる)って取り除こう
石ころも取り除いてなだらかな畑
清らかな汗をかいて畑を耕そう
そしたら
今夜は疲れて悲しいことも辛いことも
みんな忘れてぐっすり眠れます
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山羊の乳
山羊の乳は
ねとっと白く 濃く青草の匂いがするのよ
そう それは ずうとずうと前の事
母さんが 貴方達の年のころ
家では白い山羊を一匹飼っていました
母さんの母さんが 母さんの背が伸びるようにと
家族みんなの健康のためにと 一匹の山羊を飼っていました
学校から帰ったら 背負い籠一杯の青草を刈るのが母さんの仕事
山羊は とっても 大食漢
夕方には山羊のお乳を搾るのよ
パンパンに張った大きな乳房
おばあちゃんは巧い具合に指でしごいて
しゅっ しゅっ しゅっと
真白いお乳をしぼるけれど
ちいさい母さんにとってそれはそれは大事な事
山羊がじっとしてくれなくて 泣きたい思いも度々ありました
ぶとにもいっぱい刺されたわ
ボールの中へ泡たてて
しゅっ しゅっ しゅっと泡たてて
青草の匂いのする甘い香りがひろがるの
辺り一面 広がるの
出勤前のひと時の
洗濯中に浮かんだ石鹸の泡が
山羊のお乳と重なった
遠い 懐かしい 子供の頃
抜けるようなサファイアブルーの空のもと
山羊の形の白い雲
流れて 解けて 広がりました
じわっと解けて ゆ き ま し た。
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畦草刈り
稲の穂が あんまり嬉しげに
ゆさゆさ嬉しげに笑うものじゃけ
ついつい うちまで嬉しゅうなって
一生懸命 草刈った
稲の根元へ迫り出しとる
イラクサや蚊帳吊り草の雑草を
左手で握って 右手の鎌をすうっとひっぱると
ざくっざくっと 歯切れのええ音立てて
草は刈られて 草のにおいがたち込める
ざくっ ざくっ ざくっ ざくっ
しんどうなって 後ろを振り向くと
稲穂が心地良さげに すっくりと立てっとる
前の畦はいまだ草まみれ
今ここでうちが止めてしもうたら
前の稲は そのまんま
今までどおりの草まみれ
泣き出しそうな草まみれ
一仕事終えて 汚れた手足をお風呂で洗って
疲れた体を褥(しとね)に横たえ
瞼をとじると
ゆさゆさ嬉しげに笑うとる
棚田の様子が
瞼の裏にくっきりと うつっとる
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田植え
左手に、苗束をつかみ
指先にて苗を4、5本繰り出し
右手にその苗を受けて 田に挿す
鼻をくすぐる泥の臭い
ブスッと ふくらはぎ迄 水に漬かる
自分の植えた苗が
右手方の植え手と 左手方の植え手と
間隔が縦横一直線に揃うよう
気をつけて植えねばならぬ
「ああ、腰が痛い」
「指先も痛い」
うつむいての作業だから顔も腫れぼったい
おたおたしていたら自分の植える分だけ残されて
両端の植え手が
もう 次の植える位置へ綱を移動させるべく待っている
気が抜けない
とにかく我が感覚のみにて前の苗と横との間隔を
見定めながら苗の位置を定める
足を交互に出し
指の先をそろえて
「どうぞ、無事育ってたくさんの稲穂を実らせて
くれますように」
と 拝むように泥に挿す