「これまでの精神か診療は、まったく科学的でなかったため、なかなか治らなかった。しかし、長年にわたる研究の結果、うつ病患者の脳には共通の傷があり、それを治せばうつ病も治ることがわかったのです」
そう語るのは東北大学名誉教授の松澤大樹氏(83歳)だ。松澤氏は放射線科の教授として、77年以降、多数の精神病患者の脳を撮影してきた画像診断のプロ。PET(ポジトロン断層撮影)によるがん診断の開発でも知られる人物だ。現在は『東京・京橋未来クリニック』の院長として、うつ病、統合失調症、認知症などの患者の治療にあたっている。
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「うつ病などの心の病は、これまで脳のレントゲン写真などを使った診断は行っていませんでした。患者が訴える症状によって診断するため、医師によって診断が変わることもしばしば。裁判の精神鑑定が精神科医ごとにまったく違う結果になることも少なくありませんでした。しかし、画像診断をすれば、医師によって診断が違うといったことは起こらないうえに、適切な治療を行うことが可能になります」(松澤氏)
松澤氏は、患者と医師のやりとりで診断を下す、いわば“文学”の領域だった精神科医療に画像診断という科学を持ち込んだ。現在の精神科医療の根底を揺るがす治療法とはどのようなものなのか。
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「うつ病や統合失調症の患者には脳の扁桃体という部分に独特の傷があることを見つけたのです」(松澤氏)
通常のMRI(磁気共鳴断層撮影)ではほとんど見えない傷が、松澤氏が考案した方向から撮影すると、画像にはっきりと扁桃体の傷が浮き上がるという。
うつ病の傷も統合失調症の傷も同じく、左右二つの扁桃体にできるのだが、場所も形も違う。うつ病の傷はやや上部にあり丸っぽく、統合失調症の傷は下部で半月形で鋭い。
これまで精神科医はうつ病と統合失調症はまったく別の病気とし、患者にはどちらか1つの病名しかつけなかった。ところが、松澤氏が撮影した画像では、多くの患者にはうつ病、統合失調症両方、つまり4個の傷があった。この事実から松澤氏は、2つはもともと1つの病気と考え、「混合型精神病」と命名した。
松澤氏の観察では、傷は大きくなったり小さくなったりし、左右の傷の片方が消えると、ほとんど病気の症状が出なくなった。
この診断法なら、画像の傷を追えば、薬の効果や、状態の変化などが患者にも一目瞭然。つまり、いままでけっして見えることのなかった“心の病”を自分の目で見ながら治療することが可能になったのだ。
10年以上うつ病に悩まされ、松澤氏の治療で完治した30代男性・Aさんが語る。
「MRI画像で見ると、治療前と後では全然違います。扁桃体に左右とも穴があったのですが、その穴をいまは神経幹細胞が治してくれたのがわかるんです」
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松澤氏のもう一つの科学的指標は、血液中のセロトニンとドーパミンの測定だ。
脳神経の信号である神経伝達物質セロトニンが少ないと、うつ病が起きることはすでに分かっている。一方、神経伝達物質ドーパミンが過剰だと統合失調症を発病することも確実視されている。しかし、脳と身体の間の血管には関所があり、セロトニンもドーパミンも通過できない。そのことから、腕から採血した血液中のセロトニン量などはこれまであまり重視されていなかった。
しかし、松澤氏が測定してみると、うつ病と統合失調症を併発している「混合型精神病」患者は健常者よりセロトニン量が少なく、ドーパミン量が多いことがわかった。ちなみに、松澤氏はセロトニンとドーパミンのアンバランスで病気が起きると推測している。
「画像と血液検査の2つから、うつ病や統合失調症が完全に治ったかどうかわかる」と、松澤氏は語る。実際、Aさんのように松澤さんから「もう薬も要らない」と、完治を宣告された患者は数百人にのぼるという。
松澤式治療法は極めて簡単だ。同じ病気と考えるので、うつ病も統合失調症も治療法は同じだ。
第一は薬の種類、量を減らす。うつ病患者は何種類もの抗うつ病薬を大量に飲んでいる。だが、まったく別の病気と考えられているので統合失調症薬は飲んでいないことが多い。抗うつ病薬の種類と量を段階的に減らし、統合失調症薬1つを加え、できるだけ早く抗うつ病薬、統合失調症薬各1種類にする。それも量を減らし、画像と血液検査で確認して完治となる。
第二はアミノ酸のトリプトファンの多い食事を心がける。大豆、赤身魚、バナナ、豚肉、牛肉など。トリプトファンは体内でセロトニンになる。
第三は運動。松澤氏はMRI画像の変化から脳の傷は脳細胞の元となる神経幹細胞が集まって修復すると考えられている。常時、運動する患者の治りは早い。朝の光を浴びながらが望ましいが、屋内でもよく、運動の種類は問わない。
「この治療法で混合型精神病(うつ病、統合失調症)の9割の方は2〜3年で治っています」と、松澤氏。
これを機に、精神科医療が大きく変わることを期待したい。 |
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| PHPほんとうの時代 2009年6月13日号 |