静岡県倫理ヘルプライン(内部告発)制度の真実〜裏金等再発防止対策の実態〜

 2004.2.4 UP  2004.2.15 追記 

 静岡県は昨年10月、「裏金(プール金)問題」の再発防止策として、内部監察組織(総務室監察スタッフ)の新設と内部通報制度(静岡県倫理ヘルプライン))の創設を行なった。
 当時の報道によれば、「県と県教委は1日、裏金問題の再発防止のためにそれぞれ内部監察組織を新設し内部通報制度もスタートさせた。」「県職員総室と県教委教育総務課に置かれた内部監察組織は、財務の適正執行の監視に当たる。県は3人、県教委は5人の職員を配置した。内部監察組織には、職員の不正に関する情報を受けるため、Eメールや電話による通報窓口を設置。弁護士(1人)にも通報できるようにした。通報は原則的に実名とし、プライバシーの保護に努めるとしている。」(読売新聞2003.10.2朝刊) とされ、通報制度の通報者については、運用開始直後の知事記者会見でも「匿名は原則としていただかないことにしていますから。余程の事情が伺えない限り名前を明らかにしてもらうことにしてありますので。」(知事会見2003.10.6)と、匿名であることに何らの事情も伺えないような文書は受け付けられないと明言したのである。これについて、「いただかない」ということは「監察の調査対象にしかねる」ことだと受け止めるのは極めて自然な解釈であって、このことから県議会でも「内部告発は匿名でも受け付けなければ効果は発揮されない。制限すべきでない」などの批判があったのである。

 しかるに今般、この常識を覆すような事件が発生し、ベールに包まれていた内部監察・通報制度の運用の一端が明らかになったので、制度活用の参考としてこれらの実態を解析していきたい。

1 発端
 事の発端は昨年末、県中部以西の複数の出先機関に送付された複数の職員への親展の封書(いわゆる怪文書)である。
 この中には、あたかもある人物が10月に総務室監察スタッフ宛提出した告発文書であるかのような体裁の文書が入っていたが、実際の告発者の氏名は消され、記されていたのは単に「(以下の者が)横領した」という冒頭記述及び、その不正行為者として名指しされた者の所属と氏名(複数)が記されているだけであり、実際どのような横領なのかの記述欄は全面墨塗りされ、実際その下に本当に記述があるのかさえ不明な、まさしく怪文書であった。
 この事件を受け、年末には複数の出先機関において、「このような個人を中傷するようなことはしないように」「具体的に訴えたいことがあるのなら倫理ヘルプラインを使って(正規に)行なうように」との伝達が管理職を通じて職員に行われたのである。
 この時点で、名指しされた者の中に私も含まれていたことを既に承知していたものの、悪質ではあるが一過性の単なるいたずら・いやがらせの類であろうし、このように注意喚起も行なわれた以上しばらく静観することを決めていたところである。
 しかし、年明け早々、監察スタッフはこのような「怪文書」を根拠とし、1日がかり2人で往復旅費2万円以上かけて横領に関する聞き取りと称し、私のところに聴取(しかも、僅か20分程度)に来るに至り、もはや看過できない事態となったのである。

2 告発文書
 これを受け、聴取後直ちに提出の意向を伝えた上で、後に実際、静岡県倫理ヘルプライン担当弁護士あて提出したのが以下の告発状である。
告 発 状

 静岡県倫理ヘルプライン
 担当弁護士 ※※※※※ 様

静岡県倫理ヘルプラインに基づく通報として以下のとおり告発します。

1 通報対象行為区分

  「B その他公正な職務の執行を損なうおそれのある行為」

2 通報対象行為の実行者(以下、実行者と略記する)

  総務室監察スタッフ職員 ※※※※※

  同               ※※※※※

3 通報対象行為の概要

  平成16年1月15日、上記実行者は、出先機関に勤務する複数の職員個人宛送付された出所不明の文書いわゆる怪文書のみを根拠と告知し、その怪文書の出所及び送付の意図を確認しないまま、当該文書に横領の事実ありとして名指しされていた者(本件告発者)に対し、その勤務地において、具体的事実を何ら特定しないまま横領の容疑者として過去の職務行為全般に渡り、聴取による取り調べを行なったものである。

4 当該行為が公正な職務の執行を損なうおそれがあるとする理由

  一般に「公正な職務」とは「公平で、かつ、誤りのない職務」をいうところ、上記行為の内、調査に至った手続が公平性を損なう行為であること及びその聴取手法に人権を軽視した誤りのあることを以下に述べる。

 (1) 調査に至った手続が公平性を損なう行為であること

 そもそも、「静岡県倫理ヘルプライン」の正規の手続によるならば、乱訴防止のため、告発者はその氏名を告げ担当窓口に告発を行なうべきものとなっており、担当部署はその受付にあたっては、真実発見の要請と基本的人権の保障の調和の下にあるデュー・プロセス(適正手続)を踏まえ、当該告発が虚偽告訴等の罪(刑法172条)にあたらないか、告発に際し調査の端緒として事件性を疑うに足る相当の理由があるかなど告発者に確認の上受理し、容疑者等への調査に及ぶべきである。

 このことは類似の制度である地方自治法242条第1項に定める事実証明の添付要件、あるいは未だ捜査に至らない前段階の捜査の端緒である職務質問にさえ任意手段への法規制原理として適正手続が要請されることとの均衡から静岡県倫理ヘルプラインという下位の制度において法定の人権擁護システムを逸脱するような運用を認めるという不合理を考えれば最低限要請される手続というべきである。

 しかるに実行者は聴取にあたり本件告発者に対し、出先機関に勤務する複数の職員個人宛送付された出所不明の文書いわゆる怪文書のみを根拠と告知した上、六何の原則に則した具体的事実を特定することもなく、また、疑うに至った理由を告知することもなく、実質、容疑者としての取調べを実行したものであり、氏名を告知して告発したものとの均衡を書く不公平な運用である上に、適正手続を欠く誤った運用として現に不公正な職務の執行であるというに止まらず、今後、類似の匿名情報(インターネットの掲示板等への書き込みなど)に基づき等しく同様の調査が行なわれることを鑑みれば現行の「静岡県倫理ヘルプライン」という制度の根幹を揺るがす「公正な職務の執行を損なうおそれのある行為」であると思料するものである。

 (2) 聴取手法に人権を軽視した誤りのあること

 基本的人権との関係において、かかる聴取に当たって要請される法規制原理としては先に述べた適正手続の要請のほか「目的に必要最小限でかつ相当な手段に限定すべき」という比例原則がある。

 本件通報対象行為中の聴取行為においては、その容疑が抽象的に「誰々が横領した」というだけの対象行為を限定したものでないため、「郵券の取扱に問題がないか」、「ボールペン等の物品の私用がないか」など広範な横領容疑の聴取に止まらず、「出張中に私的な用件で寄り道がないか」といった職務専念義務違反など他の容疑にも及ぶ聴取を受けたのである。

 このことは正規の手続による告発を受けた具体的事実に関しての聴取との均衡を失するばかりか、比例原則にも違背した誤った聴取行為であり、本件通報対象行為中の聴取行為は「公正な職務の執行を損なうおそれのある行為」であると思料するものである。

 また、「静岡県倫理ヘルプライン」制度が悪質な案件にとどまらず微細な容疑までをも対象としたものであること(すなわち、告発すべき事案とすること)は今後の乱訴を奨励するものとして、このこともまた「公正な職務の執行を損なうおそれのある行為」であると思料するものである。

5 特記(措置の請求等)

 そもそも、怪文書に書かれた容疑が虚偽のものであった場合、出先機関に勤務する複数の職員個人宛送付するなどの態様において名誉毀損罪(刑法230条第1項、親告罪)を構成するものとして、また、仮に正規な制度手続に沿って出されていたとしても虚偽告訴等の罪(刑法172条)を構成するものとして、いずれにしても犯罪の嫌疑が認められるものである。

 ならば、行政当局としては先ず初めにかかる犯罪の容疑のある行為についての調査を為すべきは当然であろう。

 しかるに、実行者は聴取に当たり、本調査で容疑事実がないと確認できたら怪文書を出したものを調査し、それが職員ならばしかるべき処分を為すという本末転倒の手順を述べ、こともあろうか、「怪文書の差出人に心当たりが無いか」などの怪文書の差出人特定に必要な聴取は何一つ行なわなかったのである。

 もしこの調査手順が、例外的に行なわれたものでなく一般的なものであり、かつ、送りつけられた文書というこれほどの物的証拠がありながら差出人を特定できなければ、すなわち匿名の怪文書は静岡県倫理ヘルプラインの上でも有効な告発手段と同視されることになるという事実を考えれば、行動に慎重な公的機関の行動としては極めて不自然なものと感じざるを得ない。

 それゆえ、今回の実行者の調査が、意図的に怪文書を利用し本件告発者を狙った例外的なものではないかとの疑念も払拭できないのである。

 よって、静岡県倫理ヘルプライン制度の運用の適正に必要な対策を求めると同時に、本件告発者の上記疑念を否定するものとして怪文書の差出人の特定及び必要な処置をとりわけ強く求めるものである。

 おって、静岡県倫理ヘルプライン制度がプール金問題に端を発し始められた制度であることから職員のみならず県民の関心も高く、その運用実態を正確に伝えるため、本件告発の内容及び今後の県当局の対応については氏名等プライバシーに関するものを除きインターネット上での公開を予定しておりますので、氏名以外で公開に不都合な箇所がある場合はその箇所と理由を明記の上、御回答くださるようお願いするものです。

以上

平成16年1月21日

<告発者> ※※※※※勤務
※※※※※

(2004.1.21付け簡易書留にて送付)

3 解説(見解)
 私が上記文書を提出しここに公開した主たる目的は、闇の中にあって見えない内部通報制度が真に何を目指しているのかを明らかにするためである。
 最近は企業にあっても「ヘルプライン」や「ホットライン」といった内部告発制度を採用するところが増えてきたという。しかもこれはコンプライアンス経営の強化の一環として行なわれるものであって、犯人探しが目的ではなく、「問題」の早期発見・是正が目的であるといわれている。
 それゆえ、最も重要なことは、何が「問題」なのかに気付くことなのである。
 コンプライアンスは邦訳では「法令遵守」であるが、本来の意味は「Comply with another's wish」(相手の期待に応える)ということである。
 それゆえに、「静岡県倫理ヘルプライン制度」もまた、裏金再発防止を直接の動機としながらも、あるべき本来の目的は、「県民の期待に応える」組織とするために何が「問題」なのかを早期に気付き、これを是正していくことにある、と私は思うのである。

 しかるに今回の彼らの採った判断(行動)には、そういう視点が何一つ感じられない。
 そればかりではない、この事件とは別件であるが、遅刻者がいるとの告発を受けてある県東部の総合庁舎で早朝、監察スタッフ自ら出勤状況の確認をしていたとの情報も得ているが、果たしてそのような生活指導的な仕事が彼らに期待された任務なのか?所属レベルでは本当に対応できないものなのか?疑問を感じざるを得ない実態であるとともに情けない思いである。

 私は、彼らが実は目先の処理(件数)に囚われ、理念・目的を見失っているのではないのかと感じている。
 もしそうなら、直ちにその過ちに気付くべきであろう。

 私が投じた疑問に対し、既に2週間経ったが何の音沙汰も無い。
 もしこれが裏金不正のような問題を告発したものであったなら、告発者はどのように感じるだろう?
 一般には、自分が出した告発事実は調査されていないのではないのか、隠蔽されようと工作されているのではないのかとの不安を覚えるのではないだろうか。実に不親切な対応というべきであろう。
 それゆえ、このような実態であるなら、むしろ、マスコミや検察等への告発の方が最善の選択となるのは必然というべきであろう。一方、そのような機関も扱わないような細かな規律違反等は今回のように匿名の怪文書・怪投稿でも県は調査してくれるのだからこれを選択する者が出てくるのも必然というべきだろう。さらにはこれが個人的怨恨にも利用されるだろうことも容易に想像されるのである。(正規の制度には動機による制限があるが、動機の特定など困難であり、実際、制限はなきに等しい)
 かくして、職員総相互監視の職場環境を形成し、微細な不正まで徹底して根絶するというのが彼らの「裏金等再発防止策の目指す姿」だというのなら、彼らは今回正しい選択的行動をとったということになろう。なんならいっそ、全職場に監視カメラでもつけたらどうか(そうすれば、他人のパソコンに水をかけて壊すようないたずら好きな職員もいなくなるだろう)と言いたい。

 彼らが今後に何を期待するのか。
 私の告発に対しいかなる見解を返すのか、今後注視していく。

<参考〜聴取手続体験リポート>

 アポから聴取に至る手順がどのようなものかを、今後同じ立場に立つかもしれない職員のため、簡単にリポートしておこう。

1 ファーストコンタクトは電話だった。ただし出張中で不在だったため机上に伝言メモが。「総務室※※あて電話してほしい」と。

2 早速電話したところ、「1月15日11時ごろから1時間くらい話を伺いたい。こちらが行くので。」とのこと。ただしこの時点では何の目的かなどは告げられず。「午前中は都合が悪いから午後にしてくれ」と変更を要請し午後1時半ということで合意。

3 1月15日当日。1時すぎに電話があり少し開始が遅れるとのこと。「会議室を取ってあるので、着いたら電話で呼びます」とのことだったが、「電話でなくてこちらに1度来るように」と指示。

4 1時35分ごろ監察スタッフの1人が呼びに現れる。「(事務所の)上の方にはちゃんと話は通してあるの?勝手に席を離れるわけには行かないだろ」と聞くと(全く誰にも)「話してない」とのこと。いまさら責めてもしょうがないので、その一人を連れて次長に了解をもらってから聴取の会場へ行く。

5 会場は長テーブル2つを挟んで2対1の対面形。後で言った言わないは嫌なので例のごとく自前の録音機を机上に置きスイッチON。後は告発文のとおり趣旨説明から始まり聴取へ。(時間は余談含め20分程)

4 追記

(1) 追記その1
 このページをご覧くださりありがとうございます。
 今回の一件は第三者も絡んだ問題であるため、このあたりの説明不足から、皆様に過大なご心配・お手数をおかけする結果となったことを謹んでおわび申し上げますとともにお礼申し上げます。
 今回の聴取に対する私個人の受けとり方ですが、相手の意図はともかく、プレッシャー(圧力)を受けたという感じはありません。むしろ、自分への聴取については「何て馬鹿なことをするんだろう」という同情の気持ちが強かったくらいで、ご心配には及びません。聴取時の対応についても、質問内容は不快なものですがマニュアルどおりに聞くといった事務的なもので厳しく問いただされたというものではありません。
 今回この事件を問題としたのは何ら罪無き一般職員にまで同じような聴取を行なったことに対して、もし巻き込んだのなら許せない、そうでなくてこれがこの制度の実態だとしてもこれまた罪無き被害者を生み出す危険のある運用だ、と思ったからです。
 このことから、便宜上監察スタッフの2名を告発対象としておりますが、措置の請求においては(今後の)「制度の運用の適正に必要な対策」を求めたところであります。また、同時に疑惑解消のためとして怪文書の犯人特定について求めていますが、この点の真意についても、(第三者のプライバシーに関する問題が絡んでいるため詳しくは申し上げられませんが)差出地や名宛人などから私自身、犯人が当局絡みではないある人物の怨恨であるとの推測をしており、同人による再発の恐れが大きいため要請したものです。
 これら背景事情をお話したある記者の方から「聴取に来た職員について好意的に解釈するなら、調査のノウハウが全くなかったのかも」とのご感想をいただきましたが、実際のところ私も同感で、そちらの可能性のほうが強いものと思います。
 したがって、(私的メールの監視の心配をされる方もいましたが)現状においてはそれほど一般の職員が不安感をもつ必要も無いかと思います。
 しかし、現状のままであれば将来、悪用の可能性があることは明らかです。決して望まれて生まれた制度ではありませんが、捜査規範のような抑制の規律を確立するなどしてよりよい方向に改善され育ってくれることを期待しております。(そのためにわざわざ担当弁護士あて出したのですから)
 なお、残念ながらというか予想通り、担当室・弁護士からは未だ何の回答もありません。

2004.02.15