全国青年女性漁業者交流大会      
3月3日〜4日にかけて、東京虎ノ門パストラルにおいて第4回全国青年女性漁業者交流大会
が開催された。漁業技術部門、増養殖部門、漁業経営部門、環境保全活動部門、地域活動部門
の5部門に分かれて合計60のグループの代表または個人の活動が発表された。私の発表は、
増養殖部門で水産庁長官賞を頂いた。以下はその内容である。

  イワガキに賭ける夢
          〜特産化を目指して〜                                                  浦郷漁業協同組合
                                中上 光
1.地域及び漁業の概要
  私の所属する浦郷漁協は隠岐郡西ノ島町に位置し、組合員数991名の県内で水揚げ第3位の比較的大きな漁協です。
 旋網漁業がその中心ですが、かに篭漁業、定置網漁業、刺し網漁業等も盛んで、また島前湾という地の利を活かした魚介類養殖は県内生産量の大部分を占めています。
しかし、漁業資源の枯渇、組合員の高齢化など、将来への不安材料も多いのが現状です。
2.養殖に取り組んだ経緯
  私は今から約20年前になりますが、同じ仲間が都会へと出てゆく中で、何とか生まれ育った自然環境を利用して生活できないものかと考え、昭和53年から数少ない漁業後継者の一人として当時事業化が進みつつあったイタヤ貝の養殖に取り組みはじめました。 自然の海の生産力を餌料として直接利用でき、環境にもやさしい二枚貝養殖は、日本海で数少ない穏やかな島前湾には最適であると考え、より有利に養殖できる貝はないかとヒオウギ貝アズマニシキなどの付着稚貝を拾い集めて飼ってみたり、天然物しかないといわれ、一部の食通の間で評価の高かったイワガキの天然採苗を試みたりしました。何しろイタヤ貝養殖だけだと収入のある時期が春から夏までだけなので、その時期に売れない又は売るものがない事態が起こると収入がない状態になり、経営が不安定となるからです。  その後、イタヤ貝の天然稚貝があまりとれなくなったため、養殖事業の安定化を目指して昭和62年に制度資金を導入して人工採苗施設を造りました。この施設でイタヤ貝、ヒオウギ貝の人工採苗に取り組み、平成3年まではヒオウギ貝に主力をおいて生産し、人工採苗による二枚貝養殖の基礎をつくることができました。
 その一方で、より経営の安定化を図るため、人工採苗技術を生かした新しい養殖種を模索しました。そこで、以前天然採苗に取り組んだことのあるイワガキに着目し、人工採苗に試験的に取り組んでみましたが、技術的に未熟であったことや、採苗時期の重なるヒオウギ貝の生産に追われるなどの理由で当初の生産はうまくいきませんでした。
 しかし、幸いにも県の水産試験場がイワガキの人工採苗に取り組みはじめたことから、試験場の担当者からも助言をいただけるようになり、種苗生産に成功する事ができました。
 これを足がかりに、現在ではイワガキの養殖を全国で初めて軌道に乗せることができました。
3.イワガキの人工採苗について
 次にイワガキの人工採苗について概略を説明いたします。
 人工採苗に使う親ガキは最初は港付近で採集した天然物を使っていましたが、今は自分で養成したものを使っています。
 採卵は親ガキの生殖腺が熟す7月中旬から9月までの間に行います。最初にイワガキの貝殻を開けて雄雌に分け、卵を切り出し法で海水中に振り出してから、同じく海水で薄めた精子を入れて受精させます。
 受精からふ化までかかる時間は、水温25度で約6時間です。ふ化した幼生は1M当たり2〜3個で1トンの水槽に収容しますが、付着させる頃には1M当たり1個程度に落とします。幼生の餌にする植物プランクトンは試験場から分けていただいた種を増やして使っています。付着までの管理はイタヤ貝、ヒオウギ貝とほぼ同じで、毎日の餌やりと2〜3日に1回の水替えと1週間に1回ぐらいの水槽替えです。
 浮遊幼生の大きさが350ミクロンになると眼点ができて付着行動に入るので、付着材を水槽に入れます。付着材には二枚貝の貝殻を使用しますが、汚れが比較的少ない、丈夫である、かさばらない、入手しやすいなどの理由からホタテ貝の貝殻がもっともよいと思います。付着確認後、1週間から10日ぐらいで付着した稚貝が1mmぐらいになるので、養殖場に移します。このとき魚による食害を防ぐために、保護ネットに収容して沖だしします。
 人工採苗についてはイタヤ貝、ヒオウギ貝で得られた技術が応用できましたが、イワガキに適した飼育技術の確立については、水産試験場からの助言を基に試行錯誤を繰り返して、やっと思うように生産できるようになりました。
4.養殖について
 沖出し後、稚貝の大きさが2〜3センチメートルを超えたら通し換えをします。通し換えはマガキの養殖に使われている長管を稚貝の付着した貝殻と交互にロープで通して、海上の養殖施設へ垂下してゆくもので、ロープ1本当たり15枚の貝殻を通します。ロープには直径10ミリメートルのポリエチレンロープを使い、ロープの一番下に1kgの錘を1個取り付けます。これを1連として、幹綱200メートル当たり200連垂下可能ですが、稚貝の付着密度、養殖施設の強度、養殖海域の条件によって工夫が必要と思われます。その後はイワガキの成長にあわせて適宜増し玉を実施し、約2年で大きいものは1個300gになります。
5.出荷について
 イワガキ養殖作業の中でもっとも重労働なのが出荷に関わる作業です。1個1個が固く密着しているため、平成9年までは注文に応じてカキの塊を鉈で分解して大小を分けてから、海水をかけ流して洗って出荷していました。この方法では1日の出荷可能な数量が300個程度に押さえられていましたが、平成10年からマガキ養殖やホタテ養殖で行われる耳吊り方式を導入したところ1日当たりの出荷可能な数量が倍以上になりました。価格も天然イワガキがあまり出回っていない4月、5月には大阪市場で1個000円から000円近くの値段が付きました。
6.収支概算 
 水揚げ1,000万円を目標として、3年目の2月から3月の間に1日当たり3人で1,000個の耳吊りが可能な場合を仮定して試算してみました。(表)販売価格を1個250円と仮定すると、1,000万円の水揚げを達成するには40,000個の準備が必要となります。栽培センターから稚貝を購入し、稚貝の歩留まりを8割とすると稚貝が20個付着したホタテ殻が2,500枚必要となります。
?

7.顧客の反応
 私の所のイワガキを全国にPRするために、去年の春からインターネットにホームページを開設してイワガキのおいしい食べ方などを宣伝していますが、少しずつですが注文も増えてきており顧客の反応も想像以上のものがあります。ここで、お客さんからの電子メールを2つ紹介したいと思います。
 これは長野県の方からいただいたものです。
「義理の妹が送ってくれたイワガキを食べました。今までに食べたどのイワガキよりも濃厚でそれでいてすきっとした味でおいしかったです。中身の大きさがお見事。一番大きいのは140gありました。子供たちは興奮して、食べもせず、殻を割るのを見るのに夢中でした。価格はリーズナブルだと思います。友人に勧めるつもりです。とてもおいしかったです。子供も大満足です。義理の妹に感謝するとともに、こんなにおいしいカキを作った人々にも感謝します。ごちそうさまでした。とにかくとてもおいしかったので、これからもがんばっておいしい貝を養殖してくださいね。」
 もうひとつは神奈川県の方からいただいたメールです。
「6月11日にイワガキを送っていただいたものです。イワガキは、以前こちらのレストランで食べたことがありますが、大きさといい味といい、全く別のものでした。欧州では、ブロン等を食べて日本のカキよりも美味しく、懐かしく思っていましたが、今度はイワガキのファンになってしまいました。フランス人にイワガキのあの美味しさが知れると買い占められてしまうと思うので気を付けてください。種苗生産など難しいことがあって大丈夫なのかも知れませんが。」
 こういったお客さんの生の声が直接聞けると、どんなものが求められているのかが分かり、生産する上で参考になりますし、大きな励みにもなります。
 イワガキは他のどの貝類と比べても非常に日持ちがよく、例えば家庭用冷蔵庫に1週間置いたものを海へ戻してやると、再びちゃんと成長すると言った具合なので、遠隔地輸送に十分耐える商品です。小規模な経営体でも自分でつくったものを全国の人に自分で宣伝し販売することができる、そういう世の中になってきました。
 北海道へも沖縄へも発送いたしました。東京のお客様からは来年の出荷はいつからかと問い合わせがありました。今まさに隠岐のイワガキは引っ張りだこになりつつあります。
 20年を経た今、イタヤ貝養殖に始まった私の二枚貝養殖への試みはイワガキによってやっとその手応えを感じ取れるまでになりました。

8.今後の課題
 今後の課題として、耳吊り作業の効率化、販路の開拓、食品としての安全性の確保等があげられます。販路の開拓はこれから島根県での生産量の増加が見込まれるので、他県に先駆けて島根県のイワガキを大々的にPRしていく必要があると思います。安全性の確保については定期的な貝毒検査等を関係機関にお願いし、また殺菌海水かけ流しなど、マガキ養殖の先進地を参考に取り組んでいきたいと思います。
8.終わりに
 私の二枚貝の人工採苗技術はすべて島根県水産試験場の勢村主任研究員にご指導いただいたものです。この場を借りて深くお礼申し上げたいと思います。ご静聴ありがとうございました。

                           戻る