島前海域における養殖イワガキの衛生学的研究(平成12年度)

島根県栽培漁業センター生産開発科長勢村均氏の許可を得たので、ウェブ化しました。


目的
  島根県隠岐島のイワガキ養殖は島前海域が中心であり、出荷数は、平成11年32,000個平成12年42,000個であり、平成13年
 には100,000個を越えると予想される。イワガキ軟体部の大腸菌数とSRSVの検査は定期的に県衛生公害研究所が行っているが、HA
 CCP方式による衛生監視では、最も重要な情報は養殖海域の衛生細菌の動向とされている。
  そこで本研究は、今まで全く調査されていないイワガキ養殖海域での大腸菌群およびビブリオ菌群の動態に関する情報を得、養殖
 漁場の評価材料にするとともに一連の出荷作業工程で汚染されやすい箇所の把握を行うことを目的とした。

材料と方法
1. 調査地点
 現在養殖を行っている場所のうち、5地点で行った。すなわち、西ノ島3地点、知夫・海士1地点である。西ノ島1養殖場(中上)は
外海との接点である赤灘口に近く、水深40メートルと深く、潮替わりがよいと考えられる。西ノ島2養殖場は浦郷湾奥の魚類
養殖場付近に位置し、水深は10メートル程度、植物プランクトンは豊富であるが潮替わりは悪い。西ノ島3養殖場は細長い水
道部にあり、水深約20メートルで潮替わりは比較的良い。知夫養殖場は漁港出入り口から数百メートル離れた沖防の内側にあ
り、水深約20メートルと深い。海士養殖場も同様の場所に位置するが水深は9メートル程度と浅い。各地点ともイワガキを垂
下養殖している場所とイワガキの出荷処理を行う場所、あるいは出荷前に一時蓄養を行う場所で採水した。

2. 採水および菌検出方法
 滅菌ガラス瓶(100ml)を転倒採水器に装着し、イワガキ養殖層(深度5m前後)あるいは海水取水層の海水を採集した。採水し
たガラス瓶は保冷箱で氷冷してセンターまで運搬し、ただちに培養液に接種した。現場水温はそれぞれの地点の表面水温を測定した。
 大腸菌群はBGLB発酵管を用いた液体培地法で37℃48時間の培養後m発酵管中に生成したガスの有無で菌の存在を判定した。菌数
は5本管による最確法で求めた。
 ビブリオ菌群は、食塩ポリミキシンブイヨン培養液中で37℃12−20時間増菌させ、増菌が認められた試験管中の液をTCBS平板
培地に接種して24時間培養し、緑色のコロニーが認められたものを腸炎ビブリオ、黄色のコロニーが認められたものをその他ビブリオ
と判定した。さらに塩分濃度0、および5%のブイヨンで培養し、0%では増菌しないことを確かめた。菌数は大腸菌群と同様な方法で
求めた。

結果
  各養殖場の位置と水温からみた流況
 5月9日にセンター調査船で行った一斉調査時の表面温度は、16.3〜17.4℃の範囲であった。水温が最も高かった場所は西ノ島2養
殖場、次いで海士養殖場であった。このことより、西ノ島2養殖場の海水交換が最も悪く、次いで海士養殖場ではほかの3地点に比べる
とやや悪いと考えられた。
[西ノ島1養殖場]   5月10日から7月17日の間に養殖場と作業場で、計6回の調査を行った。表面水温は両地点とも7月以降
水温が20℃を越えた。その他ビブリオ菌群は5月中下旬から検出され、養殖場で2〜46MPN/100ml(以下単位省略)、作業場で11
〜790の範囲であった。両地点とも水温が20℃を上回ってから検出量が一桁増加した。腸炎ビブリオ菌群は養殖場のみで6月中旬以
降2〜6の範囲で検出された。大腸菌群は養殖場では検出されず、作業場では5月下旬以降2〜23の範囲で検出された。水温は17℃
以上で検出されているが、ビブリオ菌群ほど水温との相関は見られなかった。


[西ノ島2養殖場]   5月10日から8月1日の間に養殖場で5回、作業場で3回の調査を行った。表面水温は西ノ島1養殖場より
常に数度高く、8月1日には26〜27℃であった。その他ビブリオは菌群は両地点で全期間検出された。検出量は作業場が養殖場の1
桁から3桁高かった。水温との関係は明瞭ではなかった。腸炎ビブリオ菌群は養殖場で2〜6の範囲で6月以降検出された。大腸菌群は
作業場のみで6月下旬と7月上旬に384および12検出された。



[西ノ島3養殖場]   5月10日から7月31日の間に養殖場と作業場で5回の調査を行った。表面水温は西ノ島1養殖場よりやや
高く、6月下旬には20℃を越えた。その他ビブリオ菌群は5月下旬から7月末まで、養殖場では5から109、作業場では5〜700
検出された。水温との関係は養殖場1と同様であった。腸炎ビブリオ菌群は、養殖場では5月末から7月上旬にかけて5〜25検出され
たが、作業場では6月26日に2検出されたのみであった。大腸菌群は両地点とも5月と7月に、養殖場では7〜12検出された。

[知夫養殖場]     5月10日から7月17日の間に養殖場で6回、蓄養場、作業場で5回の調査を行った。表面水温は6月中旬
には20℃を越えた。その他ビブリオ菌群はほぼ全調査月日で検出された。検出量は養殖場で27〜240、蓄養場で4〜2,400、作
業場で5〜1,720の範囲で、水温20℃を越えると検出量が一桁〜二桁多くなった。腸炎ビブリオ菌群は水温との関係はあまりなく、
各地点で散発的に検出された。検出量はいずれの地点も2〜5の範囲であった。大腸菌群も水温との関係はあまり観察されず、ほぼ全期
間、散発的に検出された。検出量は養殖場で2〜21、蓄養場で2〜5、作業場で7〜542の範囲であった。

[海士養殖場]     5月10日から8月2日の間に各地点で5〜6回の調査を行った。表面水温は6月下旬に20℃を超えた。そ
の他ビブリオ菌群は両地点ともほぼ全調査期間5〜130の範囲で検出され、検出量は水温が20℃を越えてから一桁〜二桁増加した。
腸炎ビブリオ菌群は両地点とも散発的に検出され、検出量は2〜15の範囲であった。水温との関係はほとんど見られなかった。大腸菌
群は沖湾では散発的に2〜13の範囲で、沖防内では全期間2〜7の範囲で検出され、水温との関係は見られなかった。



考  察
  養殖漁場の評価   生食用マガキ漁場の基準である「大腸菌群70MPN/100ml以下」の基準を当てはめると5〜7月のイワガキ
出荷全期間を通じて各漁場の大腸菌群の検出量は最大でも23であり、生食用の漁場として適していると考えられる。但し今年度の調査
期日の天候はいずれも「くもり」または「晴れ」であり、通常大腸菌群がよく検出される「雨」の状態での調査は行っていない。来年度
は天候による検出量の多寡も検討する必要がある。また、腸炎ビブリオ菌群は最大で25程度検出されているが、この菌群は具体的な基
準がないので検出量による判定は困難である。来年度は離岸距離による検出量の多寡を検討する。
  作業場の評価    作業場で使用する海水中の各菌群の検出量は、養殖場のそれより多かった。但し、腸炎ビブリオ菌群について
は養殖場と同等か少ない傾向があった。大腸菌群については時に漁場基準である70を越す日があり、最大542検出された。検出量と
天候、水温との関係は伺われなかったが、検出量の多い作業場は集落の近傍に位置する地点であるので、このような場所に位置する作業
場では洗浄などに水道水を用いるか、海水を使用する場合には海水の殺菌処理が必要である。またビブリオ菌群の検出量は養殖場より一
桁ないし3桁高かったが、腸炎ビブリオ菌群は増加しないのでこの群からの評価は困難である。



  島前海域のイワガキ漁場図

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