ATRAC3を評価する
今月Sony とReal Networksの提携でSonyが提唱していた圧縮フォーマットATRAC3をReal
Networksが全面的に取り入れ、
同社の音楽配信の標準的なフォーマットとすることが発表された。これに伴い、Real
NetworksからATRAC3のエンコーダ
RealProducer8.5とデコーダRealPlayer 8が公表された。
従来、ATRAC3のソフトでのエンコーダ/デコーダはSonyのOpen
MGメモリスティック携帯用プレーヤやVAIO PCの一部のモデルの
購入者にのみ配布されており、ビットレートも66kbps、105kbps、132kbpsに限られていたが、今回Real
Networksからリリースされた
ソフトは105kbps、132kbps、176kbps、264kbps、352kbpsと更に高音質が期待できる上位三つのビットレートが追加されている。
この機会にいままで一部のSony userだけに限られていたATRAC3がどの程度の特性を示すものか、そして今回加えられた
高ビットレートでの音質はどうなのかをMP3と対比しながら評価してみた。
1. 実験方法
用いたエンコーダはRealProducer Basic 8.5beta(8.5.0.148、free
download version)、デコーダはRealPlayer 8
Basic(6.0.9.380、日本語版)である。
エンコードはこのバージョンでは132kbps、264kbps、352kbpsのみ可能であった。評価は正弦波を用いた周波数レスポンス、S/N比、
歪み率の測定と鋸歯状波を用いて圧縮・復元過程での元信号の欠落の様子を観察することによって行い、最後に実際の音楽による
試聴もしてみた。
2. 実験結果
2-1 周波数レスポンス、S/N比、歪み率
測定結果を図1、2および表1に示す。周波数レスポンスは高域再生限界が132kbpsでは約17kHzであるが264kbps以上では22kHzまで
完全にフラットな特性を示す。S/N比、歪み率は最近のMP3エンコーダに比べるとかなり悪い結果が得られおり、高域へ行くほど顕著になる。
実用上は携帯用プレーヤでは問題のないレベルとしても、高音質指向のシビアなユーザにはノイズ感などの点で問題になる可能性が
ある。なおこの点に関してはビットレートを上げてもほとんど改善がみられなかった。
図1 ATRAC3の周波数レスポンス 132kbps
図2 ATRAC3の周波数レスポンス 264kbps
| 200Hz | 1kHz | 10kHz |
| S/N比(dB) | 72.3dB | 69.1dB | 54.2 dB |
| 歪み率(%) | 0.022% | 0.035% | 0.193% |
表1 ATRAC3のS/N比、歪み率(全調波歪み+雑音
2-2 鋸歯状波を使った測定
この測定で分かることは、圧縮・再生の過程でどの程度元の信号が失われているかということと、発生するプリエコーの量でありいずれも
音質に重大な影響を与える要素である。
鋸歯状波の信号サンプルは前の実験に用いたのと同一のものを使用した。元信号をエンコード/でコードしたFFTスペクルの測定結果を
図3〜図6に示す。
図3 元信号
図4 MP3 エンコード:Fraunhofer MP3Enc v3.1 128kbps、デコード:Winamp v2.64+Shibatch in_mpeg123 v1.18
図5 ATRAC3 132kbps
図6 ATRAC3 352kbps
以上の結果から分かることは
(1)ATRAC3の132kbpsはMP3に比べると信号の欠落が大きい。
(2)信号の欠落はビットレートを上げてゆくと、改善されるが、よく見ると元信号やMP3に比べると2kHz〜3kHzに大きな欠落がある。
これをもっと詳細にみるために、ヒトの耳に最も敏感な帯域について測定したFFTスペクトルの測定結果を図7〜図10に示した。
図7 元信号
図8 MP3 FhG MP3Enc 128kbps
図9 ATRAC3 132kbps
図10 ATRAC3 352kbps
これらの結果から次のことがいえよう。
(1) この帯域ではATRAC3の圧縮の過程で信号が欠落する程度はMP3の固定ビットレート128kbpsに比べても極めて大きい。
(2) ビットレートを上げたときの改善は小さい。
(3) 信号の欠落に加えて、雑音と思われる元信号にない信号が加えられている。
この帯域はヒトの耳に最も敏感なことに加えて、音楽信号の音色を決定づける重要な周波数帯として知られている。
以上の実験結果は音楽信号が全て鋸歯状波のような過渡的な信号が決定づけるものではないにしても、音楽再生の上では
MP3の方がATRAC3よりはるかに忠実なフォーマットであるといえる。
次に同じ鋸歯状波信号を用いてプリエコーの測定を行ってみた。図11にLAME
v3.86betaと比較した結果を示す。132kbpsでは
MP3の128kbpsとほとんど変わらないが、ビットレートが上がるに従ってMP3との較差が拡大してゆくことがわかる。
プリエコーは過渡的な音が連続するPOPS等の曲で耳障りとなることがあるが、クラシックやアコースチックなポピュラーなどでは
あまり気にならないことが多いので、許容されるレベルを定量的に言うことは難しい。しかしその量は少ないほど色々な音楽への
対応性が良いと言えるので、図11の結果は少なくともこの点でもMP3の方が優れていると言えよう。
図11 プリエコーのビットレート依存性
3. 音楽の試聴
音質を確認する為に簡単な試聴を行った。クラッシクを中心にピアノ曲、声楽曲、管弦楽等を色々なビットレートで聴いてみた。
まず132kbpsでは明らかにATRAC3特有の色づけが感じられる。とくにピアノ曲においては極端な言い方をするとスタンウェーが
電子ピアノのような感じになる。ホールに拡がりそれが徐々に減衰してゆく残響感や余韻の描写もMP3に比べると音の減衰が
速く感じられ明らかに劣る。POPSとくにロックなどになると、今度はプリエコーや独特のノイズ感がつきまとう。
この傾向はビットレートを352kbpsまで上げてもさほど改善されない。またビットレートによらずオリジナルやMP3にはない
ポップノイズが発生する。今回はエンコーダが試用版のため105kbps以下のビットレートはテスト出来ていないので何とも言えないが
少なくと音質に関しては132kbps以上ではMP3に匹敵するものは何もなかったというのが結論である。
4. まとめ
(1)正弦波および鋸歯状波を用いたオーディオ特性は全ての項目で同ビットレートのMP3より劣る。
(2) とくにヒトの耳に最も敏感な帯域における過渡的な信号に対し、圧縮による信号の欠落と雑音の増大が著しい。
(3) 実際の音楽の試聴でも、楽音に独特色づけと雑音の増加が感じられ、測定結果を裏付ける結果となった。