
2.6 日本における農業人口の変化
日本の農業人口を見ていくことは、その人々が食料生産にかかわる技術と知識を持って
いるという点で重要なことである。彼らなしでは我々は文字通り飢えるしかない。農業従
事者の生活を保障することは大変重要なことである ( すべての国民に関してそう言えるが、
必要不可欠な技能を持っている集団であればなおさらである ) 。しかも、社会がその人々を
必要とする時に、十分な技能を備えた人々が不足することがないよう保障するのも重要な
ことである。板倉は江戸時代の人口の約 85%が「農民」であったと推定している[133]。 ま
た、 1903 年には、全世帯の 64% が農家で、そのうちの 69.6% が専業、 30.4%が兼業であ
った [134]。
表 2.35 は、 1920 年から 1999 年までの日本における労働力の変化と、総人口および労働
力人口に占める農業従事者の割合を示している。この表から、 1920 年には労働人口の半分、
総人口の 4 分の 1 が農業に従事していたことがわかる。そして高度経済成長が始まった 1960
年には、労働人口の約 30% 、総人口の 15% に減った。さらに、 1990 年代の半ばになると、
それぞれ 6% と 3%こまで下がってしまった 。

人口のわずか 3% しか農業知識を用いて働いていないのでは、今後その知識が消滅して
しまう危険性が高いと思われる。しかし、もっと悪いことには表 2.36 に表れているのは農
業人口が少ないばかりでなく、高齢者が非常に多いことである。農業人口における 60 歳以
上の割合は 1960 年には 14% だったのが、 1995 年に 60% 以上となっている。農林水産省は
極最近、統計項目の定義を変更している ( その意図するものは何だろう、と考えずにはい
られない ) が、どんな小細工をしようと表の最下段右側の数字は見のがしょうがない。つ
まり、日本の現役農民の 74%が 55 歳以上で、なんと半数が 65 歳を超えている。この数字
を基に計算すると、 1 億 2 千万の人口を抱えるこの国で、農業に従事する 55 歳以下の人々
はわずか 100 万人足らずなのである。この事実は、食料・エネルギー危機に際して、農業
の経験があり、知識と技能を持ち合わせ、肉体労働に慣れて速やかに食料増産を遂行でき
るような人材が、あまりにも不足するということである。
表 2.36 からわかるように、現在では実際に農業に携わる「就労人口」は農家人口の約 3
割しかない。ということは、実質的に農家世帯は、他の産業に従事する家族の収入に依存
しているわけである。日本では主に農業で生計がたてられる農民は「限られた才能の持ち
主」だけと言えるかもしれない。 1999 年に販売農家戸数は 247 万 5 千 ( 総農家戸数は 323
万 9 千 ) であった[135]。表から計算すると、販売農家一戸当たりの 15 歳以上の世帯員は平
均 4.45 人であるにもかかわらず、その中の農業従事者はわずか 1.41 人となる。確かに、
化石燃料がベースとなる現在の経済状況下ではわざわざ農業をやろうとする者が少なくて
当然かもしれない。現在の経済システムは、本当に農業をやりたいと望む人々でさえも、
農業経営で自立することを困難にさせている。おそらく日本で現在も農業を続けているの
は、先祖伝来の農地を所有し、成人になった段階ですでに農業に従事していて、高度経済
成長期でも転職せず農地を手放さず、兼業であっても農業を何とか維持し生計をたててき
た人々がほとんどだろう。

表2.37は、 1960 年と 1997 年の日本の農家数の変選を示している。1997 年に世帯の 84%
は兼業農家で、その 8 割以上が主に農業以外の職種によって収入を得ている第二種兼業農
家に分類される。

上述したように、化石燃料がベースとなる現在の経済状況下では、職種の選択が容易で
ある分離農する者も多くなり、たとえ就農を希望しでも経営が困難であることが現実であ
る。1998 年には、販売農家の 57% にしか後継者がいないと報じられた [136]。これだけでも
日本の農業が瀕死の状態にあると印象を受けるだろう。家族の中の最後の農業者が死んだ
ら誰が農業を引き継ぐのだろうか。農地法は法人が農地を所有することを許す方向へとい
ずれ修正されるだろう [137]。これにより、企業の農地所有が認められるが、実際に土地を耕
し作物を育てるのは誰なのだろうか、また、どのような農業形態になるのだろうか。何も
定かではない。
唯一の明るいニュースは、新規就農者が増えていることである ( 表 2.38) 。しかし、 1998
年の新規就農者 11,100 人のうち、新卒者はわずか 2,200 人だった。

ここ数年来、都市部のサラリーマンが地方に移住して農業を始めることが流行している。
一般に彼等は 30 代から 40 代で中途退職するか、あるいは 60 代で定年を迎えるかした男性
たちである。彼ら定年退職後の新規就農者は、基本的に自宅を持ち、年金生活をしながら、
育てた作物のうち自家消費分をのぞいて、売ったり友人親戚に配ったりしている。食料危
機が訪れても何とかしのげる幸運な人たちと言えるかもしれない。しかし、そんな趣味に
毛が生えた程度の農業では、いくら新規就農者が増えたといっても日本の食料自給率向上
につなげるには程遠いだろう。