南伊豆沿岸ツーリングガイド(その8)
 「命か波勝か、波勝崎から岩地まで」
      弓ヶ浜カヌースクール 塩島敏明

 今日のツーリングコースは南伊豆から西伊豆へ。長寿村の伊浜から波勝崎を越えて松崎町雲見、岩地を目指します。
 国道136号線、通称マーガレットラインは海岸線のかなり高いところを走っていて、伊浜に出るには狭くて急な道を延々と下ります。海に向かって右手には波勝崎がそびえ、眼下にはまっすぐなゴロタ岩の浜にテトラポットで囲まれた伊浜漁港が突き出しています。港には広い駐車場があり、キャンプは禁止ですが通年無料です。
 ここ伊浜の海岸線は南西に面していて、かなり沖まで数メートルから20メートルと浅く、海底には大岩がゴロゴロと転がって居ます。この海域では西や南からの大ウネリが入ると沖でも波長が詰まり波が大変険しくなります。台風の日に2トン以上ある大岩がテトラポットと防波堤を乗り越えて港の中に転がり込んだ事もあります。ウネリが高くなると横(南東)を向いた港の入り口でも波がブレイクし始め、波に乗ってしまうと正面のゴロタ石の浜に打ち上げられるリスクが出てきます。
 命か波勝か!西風や南風から逃れるときに地元の漁師さんの言葉を実感します。ここも荒れた時の逃げ場が少ない海域なので気象情報はしっかりと取っておきましょう。私のケイタイには御前崎の船舶気象通報の番号が入れてあります。(0548-63-1177)先日のツーリングでは朝の風が弱かったのですが、西からのウネリがかなり高かく、西の海域での強風が感じられました。さっそく情報を取ってみると、大王崎南西の風8m、舞坂灯台西の風10m、御前崎南西の風14m、石廊崎西の風4m、神子元島灯台南西の風6m、という通報でした。そこで、予報どおりの昼過ぎからの強風に出会うリスクを避けて、時間も端折って沖出しの片道ツーリングに切り替えました。
 岬というより海際にそびえる三角山といった感じの波勝崎を回り込むと岬の中腹に白く小さな灯台が見えます。ここは駿河湾の東側の入り口で、南から潮が射し込んでくる事が多く、無風の日でも波がザワザワとうねって流れています。潮汐流と干渉して脈流になることもありますが、一般的には北上する駿河湾流として現われる事が多いでしょう。波勝崎は駿河湾を渡る渡り鳥達の重要な中継地点でもあり、運が良ければヒヨドリの群れの渡りやそれを狙うハヤブサの猟に出会えるかも知れません。
 波勝崎の北側の荒れた谷間には野猿を餌付けした観光施設の波勝崎苑があります。ゴロタ石の浜は海岸空地で上陸可ですが、施設の敷地に入り込むと入場料を取られます。浜は傾斜が急なので、波が高いときには左手の岩磯の間にある小さな入り江から上陸します。磯の岩に渡された丸木橋の下をカヤックでくぐります。波からブロックされた石浜でお弁当やお菓子を広げてくつろいでいると、知らない間に猿たちに包囲されている事があります。カッパライに注意!お尻の財布を盗られて、カード類を山の中にばらまかれてしまった不幸なパドラーも居ました。
 波勝崎のすぐ北側には赤壁という切り立った大絶壁があります。高さ250m、北岳バットレスの様です。手前の海食洞を抜けてその真下に漕ぎ入れるといっそう感激します。左手にある地層の裂け目は蛇上り。子浦の蛇下りと対をなす柱状節理です。南伊豆町はここまで、この先はいよいよ行政的にも松崎町、西伊豆地域に入ります。視程がよければもう北に富士山が眺められます。むかしの事ですが、秋にノースショア社の社長をご案内したときに、「雪が被っていない!」とがっかりされてました。11月の真っ黒な富士山は海外の写真のイメージとはちょっと違ったようです。
 目の前の特異な形の尖った山は雲見の浅間様で、その手前の尖った小島は千貫門。遊覧船がくぐる海食洞として有名です。浅間様を回り込めばダイビングの盛んな雲見でもう一安心です。ここまで速い潮もこの先は沖出ししてしまい、再び接岸するのは黄金崎や土肥町沿岸からです。
 この地域で上陸がお薦めなのは無料露天風呂「平六地蔵の湯」がある石部と、そのすぐ北の岩地海岸です。シーカヤッカーの皆さんにはいまさらご紹介するまでもありませんが、岩地にはシーカヤックの拠点となる二つの有名な宿があります。海光苑さんと海遊荘さんです。とくに海遊荘さんのシーカヤックとパドルのコレクションにはただただ圧倒されます。
 そうそう、6月2日〜3日にはここ岩地海岸の海開きと併せて第3回松崎シーカヤックマラソンが開催されますので、この場をお借りしてご案内させていただきます。腕に覚えのある方も、ご家族友人達と楽しみたい方も是非ご参加下さい。
 最後にひとつだけアドバイスです。この海域は気象条件と地形条件が厳しいので、天候があやしいときには無理せずに片道ツーリングに切り替えるのが無難です。ご参考までに、岩地から大型タクシーを頼んで子浦まで¥4950でした。
 さて、南伊豆沿岸ツーリングガイドの連載は今回で最終回です。皆様、ご精読ありがとうございました。ではまたの機会に。

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