
私はこのとき初めてキルのからだに直に触れた。
完膚なきまでの冷たさが、私の手を焼く。
固く瞼を閉じたキルの死に顔を見守りつつ、
そのままゆっくり手を滑らせていくと、
今にも彼の囁きが聞こえてくるような気がした。
それは、生前は彼につれなかった私への恨み言だったり、
死してなお憎くてならないあの男への罵言だったり、
石にされたまことの主君ヴェルザーへのいたわりの言葉だったり。
「常に動いていなければ死んでしまうような、精力的なあの方が、
あんなおぞましい場所で身動きとれずにいるなんて、お気の毒な限りだよ」
私がバーン様を思うのとは、多少趣きが違う。
しかし、彼もまた主君を愛していた。

私もヴェルザーには何度か会ったことがある。豪放な父親の顔と、
柔媚な母親の顔との両面を併せもつ、風変わりな魔界の竜王。
「真竜の闘い」の折、ボリクスが断末魔の代わりに放った呪いによって、
魔力の大半を封じ込まれた。もはやバーン様の敵ではなくなったが、
「あやつのような者がいてくれたほうが、世の中は面白うなる。
どんなことをしでかしてくれるか、楽しみなことよ」
そう笑っておられた。
今、外の世界では何が起こっているのだろう。
ヒュンケルの足音が近づいてくる。
光明の中の世界で、きっと私を笑っているに違いない彼ではなく、
地獄に落ちることは私に劣らず確実な、あの小僧だ。
おぞましい光で、今度こそ跡形も無く私を焼きに来たのだ。
怒りとも悲しみともつかぬ激情に侵されて、
覚えずこの身が震え出す。
そんな私をキルはやさしく宥めてくれた。
「恐れることはないよ。君もボクも、神々によって創られたものではない。
何者の裁きも受けるいわれはない。
ふたりで灰になろう」
神は天にあり。世はすべて善し…と言ったのは誰だったか。
今なら私も、そう信じられる。
バーン様、もうすぐ御許に参ります。
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