多毛類(ゴカイ類)を守ろう

緒言

 山口県上関町長島西端部・四代地区田ノ浦の原子力発電所計画地において、19998

23日に海産底生生物に関する生物相調査が実施された。ここでは、現段階での多毛

類標本の同定結果を示す。まだ種レベルでの同定ができていないものが相当あり、こ

こに示す結果は、多毛類相全体の一部にすぎない。

同定結果

環形動物門多毛綱(15種)
ゴカイ科
1.  Platynereis bicanaliculata
(ツルヒゲゴカイ)
2.  Perinereis vallata
(イシイソゴカイ)
サシバゴカイ科
3.  Eulalia viridis 
サミドリサシバ
シリス科(Syllidae
4.  Odontosyllis undecimdonta
 クロエリシリス
5.  Typosyllis sp.
チロリ科
6.  Glycera chirori
(チロリ)
7.  Hemipodus yenourensis
(ヒナサキチロリ)
ウロコムシ科
8.  Lepidonotus tenuisetosus
(フサウスウロコムシ)
9.  Harmothoe (Harmothoe) cf. dictyophora
(ゴマフウロコムシ?)
10. Harmothoe (Harmothoe) cf. forcipata
11.Harmothoe (Harmothoe) sp.
ギボシイソメ科
12. Lumbrineris sp.
 
セグロイソメ科
13. Arabella iricolor
(セグロイソメ)
フサゴカイ科
 14. Amphitrite (Neoamphitrite) cf. vigintipes (オミナエシフサゴカイ近似種)

15. Thelepus cf. setosus 
(ニッポンフサゴカイ)


注目される種

 多毛類の場合には、他の地域での生物相調査が不十分であるので、稀少種かどうかの

判定は難しい。特に近年は干潟や浅海域の開発などの人為的な影響により多毛類の生

息環境も悪化していると思われ、図鑑類で「普通種」とされているものが現在も各地

で健在かどうかは注意を要する。

 今回採集された多毛類15種の中では、大型のフサゴカイ科2種が注目される。Thelepu

s cf. setosus  (ニッポンフサゴカイ)は、しばしば近縁種のT.  japonicus と混

同されている。 両種ともかつては日本各地の干潟・浅海域に普通に生息していたと

思われるが、私たちの九州各地での調査では、T.  japonicus が今なお各地で普通に

採集されるのに対して、ニッポンフサゴカイはまれである(近年の九州での確認地は

、有明海の本渡市のみ)(佐藤、未発表資料)。

 Amphitrite (Neoamphitrite)  vigintipes (オミナエシフサゴカイ)は、「本州ー

九州の浅海に生息する」(内田 1992)と言われているが、これまでに明確な記録の

ある産地は、女川湾、松島湾、三崎、江ノ島、鹿児島であり、稲葉(1988)や平岡

1994)による瀬戸内海での多毛類相の記録には含まれていない。今回の採集はおそら

く瀬戸内海での初記録である。私たちの最近の九州各地の干潟での調査では本種は見

い出されていない。本種の生息域は現在きわめて限られている可能性が高い。

今回の標本は、オミナエシフサゴカイと若干異なった特徴をもっており、それとは異

なる未記載種(新種)である可能性もある。


 長島の原子力発電所計画地の生物多様性の価値

今回の調査地(原子力発電所が計画どおり建設されれば埋め立てられる予定の場所)

は、大部分が岩礁性または転石性の潮間帯である。悪天候の中わずか12時間の潮間

帯だけでの採集で15種もの多毛類が採集され、その中には上記のように近年の報告例

の少ない大型種も含まれていたことは特筆すべきことである。

本調査地では陸域と海域が一体となって、瀬戸内海の原風景とも思えるような自然環

境がよく保たれている。それゆえここには瀬戸内海本来の豊かな生物相が維持されて

いるのかもしれない。今回は潮間帯の比較的高い場所でしか採集ができなかったが、

大潮時の低潮線付近やその下の潮下帯にはさらに多種多様な多毛類が生息している可

能性が高い。

 この海域における貝類や多毛類など小さな底生生物の豊かさは、生態系の食物連鎖を

通して、豊かな漁業生産と直結している可能性が高い。長島の周辺海域に魚介類が豊

富で健在な沿岸漁業がいまなお営まれているという事実や、世界最小のクジラ(海産

哺乳類)であるスナメリ(魚を多食する)がいまなお健在であるという事実は、いず

れも生態系の底辺を担う小さな生き物たちの豊かさによって支えられているのである。

 したがって、すでに公表されている貝類、腕足類、ナメクジウオ類の調査結果や今回

の多毛類などの調査結果で示されたこの海域の底生生物の多様性や稀少種の驚くべき

多さは、この海域の生態系全体の豊かさを示す指標であるといえる。

 瀬戸内海の大部分では本来の生態系がすでに壊滅している現状をふまえるならば、長

島周辺にこれほど豊かな生物多様性が残されていることは「奇跡的」と言えるほど幸

運なことである。この海域の環境保全は、きわめて重要である。

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佐藤 正典

890-0065
鹿児島市郡元 1-21-35
鹿児島大学理学部地球環境科学科
多様性生物学講座

Tel: 099-285-8169
Fax: 099-285-8172,  099-259-4720

e-mail: sato@sci.kagoshima-u.ac.jp
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     1999年8月23日、上関町長島田浦にて、体長約10cm、佐藤 正典 採集。

 

 

 

 




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