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文学館?2
ということで、続きです。
初めての方は文学館?からどうぞ。
シーザー
起きた、見た、なった
高橋源一郎
ある朝、わたしは不安な夢からめざめた。
わたしの名前は、ジョン・F・ケネディとかトーマス・マンとかいった名前だった。
本当はグレゴール・ザムザだったかもしれない。
わたしはベッドを起き上がろうとした。
おどろくべきことに、わたしは自分の躰が大きな「毒虫」になっているのに気づいた。
この固い背中は甲殻だろうか?
まだ夢が続いているのかもしれない、とわたしは思う。
もし、夢が続いているのなら、目を覚ませばいい。目を覚ますには起き上がることだ。
わたしが起き上がろうと頭をもたげると、お腹が褐色にふくらみ、固い節で分け目を
入れられているのが見えた。
「なんてこった。これでは本当に毒虫じゃあないか」
「虫」は「毒」を持たないし、「毒」は「虫」ではない。「毒虫」は論理的に考えて、「毒を持つ虫」だ。
わたしは毒虫が好きではない。毒虫を触るのも苦手だ。
「害虫」は人びとに害をもたらす。
「甲虫」は固くぴかぴかとしている。
「毒虫」は人々に害をもたらし、そして固くぴかぴかとしている。
そしてわたしはその「毒虫」になってしまった。
「なんてこった。これでは本当に毒虫じゃあないか」
ガサ入れ
「グレゴール・ザムザさんですね?」
「はい……」
「あなたに毒虫容疑がかかっています」
「は?」
「あなたは毒虫ですか?」
「いえ」
「じゃあ入ってもいいですね?」
「え? え?」
「フランツカフカだっ」
「うわ。きたない部屋だねー。壁とかベトベトじゃん。これ毒液でしょ?
きみが吐いたの?」
「あたしじゃないー。友達が」
「どんな友達だよ」
「うん。まあそれはいいんだけどさ。さっきから気になってたんだけど、
その背中の黒いのって甲羅だよね?」
「違うよー。服だよこれ」
「嘘だよ。固そうじゃん、テカテカしてるし。それに腹もすごい分け目
入ってるしさ。もう調べるまでもないって感じだよね」
「ちーがーうー。鍛えたから腹筋分かれたんだもん」
「そういうのとはさあ。明らかに違うんだよね。……あれ、これ日記帳?」
「あー! ダメー! 見ちゃダメー!」
「いいじゃん。毒虫じゃないんなら」
「違うけどダメー! あー!」
「んーと……4月15日……」
「3カ月前だね」
「『もう仕事イヤになった。朝早いし、あちこち行かなきゃいけないし。
もし私が毒虫になったらみんなどうするかなーなんて思ったり』……ふーん」
「もう心は毒虫に傾いてたんだ」
「違うってば! ちょっと思っただけじゃん!」
「じゃあ思っただけで、実際にはなってないってこと?」
「なってないよー……」
「ああそう……その3日後、4月18日。『変な夢見て起きたら
毒虫になっちゃってた。はぁと』」
「なってんじゃん!」
「『形も変だし動きも鈍いけど、まあいっか』」
「全然よくないよ!」
字幕「固い甲羅が……クロ」(ベヤ〜ン。ズンズズン←効果音)
スチャダラパー@「サマージャム95」調
ボーズ:
今日もでかーい毒虫になりそうです
ほら言ってる、わ、超煽られる
虫っつーとこう朦朧としているうち腹部割れちゃうよ、どーも
アニ:
なー、もー『虫』って言われると
こっちも負けるかって気になるの、
虫っつーのに炎天下に
全然意味なく背中下向けてね
ボーズ:
そんで向けた瞬間に甲殻がダー
腹部パカー、毒がダラー
虫本番、海か?山か?
プールか?いや、まずは、ベッド
創世記
第一章
ザムザはザムザムの父なり。ザムザの子ザムザム、サムザムを生み、サムザム、サムザメとコバンザメを生む。
サムザメ、サムガリを生めり。サムガリ、アツガリを生みしのち四百六年生きながらえて多くの子を生めり。
アツガリ、アセカキを生めり。アセカキ、アセモとアセアンを生み、アセモ、マリモとマリナを生む。
マリナ、オニャンコクラブなるグループを卒業ののち、ゲイノウカイに長く生きのびる。マリナ、マリファナを生み、
マリファナ、トルエンとハッシッシを生めり。マリファナ、バンドマンの間で流行りし、長く愛用され、多くの素晴らしい音楽を生む。バンドマン、やがてテレビを愛し、ビジュアル系に走り、シャズナを生めり。シャズナ、イザムを生めり。
イザム、ヒナノを捨て、いや捨てられ、まあどっちでもいいけど…。そいでもって、イザム、ザムザを生む。
第二章
ザムザはイザムの子なり。ザムザ、サムサを生みしのちアツサも生めり。アツサとサムサ、とても仲がよく、きょうだいなのにいつまでひっついているのだと心配されるぐらい仲がよく、いつまで、アツサ、サムサもヒガンまで。
アツサ、アノサを生みしのち三百六十二年生きながらえて多くの子を生めり。アツサの子アノサ、ドコサを生み、ドコサ、ヒゴサを生めり。ヒゴサ、クマモトサを生み、クマモトサ、クマモトドコサとセンバサを生めり。
センバサ、センマサオを生む。
センマサオ、歌を歌い、土地を買い、バブルはじけ、妻逃げ、何もかも失い、借金残る。
センバサの子、センマサオ、センベイを生めり。センベイ、センベイブトンを生みしのち二百五年生きながらえて多くの子を生めり。センベイブトン、ザブトンとフトンを生み、フトン、田山花袋を生む。いや違った、田山花袋が蒲団を生んだんだ。フトンが生んだのはプランクトン。
フトンの子プランクトン、プラトンとヒルトンを生めり。プラトン、ソクラテスを生み、ソクラテス、アクサイを生む。
アクサイ、アクニンを生めり。アクニン、ケイサツに追いかけられ、逃げ、石に躓いて転倒す。テントウした途端にテントウムシを生む。テントウムシ、イモムシとケムシを生めり。テントウムシの子イモムシ、カブトムシを生み、カブトムシ、コガネムシを生み、コガネムシ、ドクムシを生めり。
岸田秀
人間は虫という幻想を共有しているというのがわたしの出発点である。もちろん、幻想であるから、虫に本来備わっている変態能力も壊れている。変態能力が壊れているということは、人間は環境要因によってはいわゆる正常な変態、変身ができないということである。人間は、変態能力によってネオテニー状態を脱し、成体として男が女を求め、女が男を求めることはない。正常な変態ができないということは、人間は基本的に虫ではないということなのである。しかし、それでもまれに人間は幻想に頼ることで、朝の目覚めから虫に変身してきた。もちろん「まれに」であって、虫に変身した人間が変態を遂げるまでに虫の本能、変態能力を発揮した例は見られない。フランツ・カフカによれば、人間が毒虫化したのがグレゴール・ザムザである。固い甲殻の背中、丸く膨らんだ褐色の腹部、その弓形の分け目の入った固い節などの虫類的特徴は、人類の進化の過程で突然変異的に獲得されたものではなく、ザムザのみに特徴的なものであって、ザムザ以外の人類においては幻想にすぎないというのである。すなわち、ザムザが共同幻想によりかかるあまりに人間的特徴を失い、ある朝目覚めて見出したのが一個の巨大な毒虫である。
麻☆彰晃
1995年杉並道場にて
変身するぞ!!
変身するぞ!!
変身するぞ!!
変身するぞ!!
変身するぞ!!
変身するぞ!!
中国製花火注意書き
ある朝、グしゴール・ザムザが不安た夢力らふと覚めてみると
へシ卜の中て自分の姿が一匹の、と乙つもなく大きな毒虫1こ
変ねつてほつているのに気がついた。固い甲殻の背中を下に し
して、仰向1十になつ乙い乙、ちおつとはカリ頭おもた1十ると、まるレふレらんだ、褐色の、弓形の固い節乙分1十目おいねらねた腹部カ見えに。
多湖輝@頭の体操
第99巻「物語の世界にようこそ」
問 1 :
ザムザを診た医者の証言:
「彼の話によると不安な夢からふと覚めてみると、毒虫になっていたっていうんですよ。そんなんじゃいくら私が名医でも手の施しようがありませんよね」
しかしターゴ博士はこの医者の嘘を一瞬で見破った。なぜか。
答 1 :
毒虫になったザムザはしゃべることが出来なかった。したがってザムザは、夢を見たことを医者に伝えることはできない。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
<物語メモ>「変身」カフカの名作。なぜ毒虫になっ
たか等の説明を一切いれずに物語を進めていく手法は
21世紀間近の今でも斬新さを感じられる。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
平田オリザ
凡例
★同じ数の虫が同時に飛び交う
。殺虫剤に寄る会話の中断
△虫の音はいる
○長めの間
*現代
六月初旬
ある部屋の中
舞台下手には大きなベッド
その周りを囲むように二三の虫
会場五分前
井上香と水谷佑司が下手から登場大きなリンゴを抱え上手に去る
2分後井上が戻ってくる
下手から山下典子登場
山下 △あれ、いいの
井上 え。
山下 やめたんじゃなかったの。
井上 え、うん…、そういうんじゃないけど
山下 虫かあ
井上 え。
山下 虫。
井上 ああ。
山下 ○てゆうかさ、悪夢だよね。
井上 やめなよ。
山下 だってさ
下手から根元弘登場
根元 お、早いね。どう、虫
山下 ★やめなよ
根元 ★え。
井上 いいよもう。虫はさ。根元君あっち大丈夫だった。
根元 まあなんとか。△褐色っていうのもどうかと思うよ、俺
山下 △ああ。
五島勉@ノストラダムスの大予言
グラスゴーの軍勢がアルハンブラを包囲する
漁師たちが捕らえる蟹の群れ
マルセイユの官吏は銀の燭台を獲得するが
不条理な夢にさいなまれるだろう
フランツ・カフカの「変身」を予言した詩。
1行目の「グラスゴー」は、「変身」の主人公の名前「グレゴール・ザムザ」を暗示し、「アルハンブラ」にはカフカが過ごした街「プラハ」の地名が埋め込まれている。また2行目の「蟹」は、甲殻類であるところから、作中でザムザが変身する「毒虫」の形態(固い甲殻の背中)を指しているのは間違いない。
さらに4行目では、ザムザが不安な夢から覚めるという「変身」の冒頭に言及し、さらにこの作品の「不条理」という性質をも見事に言い当てている。3行目は一見関係ないように見えるが、ノストラダムスがカフカの職業(官吏)を見抜いていたことは明白である。
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Q&A
質問 2
waca036: (*):
毒虫の大きさを教えて下さい。部屋から出られるかどうか検討したいもので。あと、落札者は試変身できるということですが試変身後のキャンセルは可能なんでしょうか。
6月15日 10時45分
samsa0 (*):
突起、装飾部も含めると、幅152体長215高さ150(cm)と比較的コンパクトに仕上がりました。試変身後のキャンセルは可能です。もしキャンセルの方が多い場合は、実費として電気代をいただくかもしれません。
6月15日 19時24分
質問 10
Kageneko_99 (3):
毒虫にのみ変身可能ではなく、人間にも変身可能と考えてよろしいでしょうか?
6月16日 20時29分
答え
samsa0 (*): いいえ。
6月16日 23時32分
質問 11
toco_t(2):
『怖い夢』というのは具体的にどのような夢を見る場合があるのでしょうか。それはマシンの誤作動で生じるのですか。また、SAMSA0さんは体験なされたことはありますか。
6月16日 21時16分
答え
samsa0 (*):
「常識では想像しえない様々な事態」とご認識下さい。ここではお話できません。落札していただくしかありません。マシンの誤作動はありません。私ももちろん経験しています。
6月16日 23時44分
質問 15
komugico (0):
マシンの外観ですが、目立ちますか。私は自分が変身する瞬間に立ち会いたいのですが、立ち会っている間、林檎を投げられない様にしたいのですが、どうしたらいいのでしょうか。
6月17日 3時56分
答え
samsa0 (*):
目立ちます。デザインにもそれなりに手をかけています。マシンの盗難についてですが、そういう危険性も含めて綿密な変身計画が必要なのです。これを怠ると大変怖い思いをすることになります。不条理コミックの「ドラいもん」のようにはいかないです。
6月17日 11時46分
質問 20
kawaharada_akio_1999 (*):
僕は乗り物酔いが酷いんですが大丈夫ですか?
6月17日 14時14分
答え
samsa0 (*):
振動はしますが周波数が高いので、通常の乗り物酔いはしないと思います。それどころではありません。
6月17日 20時17分
質問28
higaeri777 (6): 何色ですか?
私はオレンジ色が好きなんですが、その様に変身もできるんでしょうか?
6月17日 23時53分
samsa0 (*): 私もオレンジ色は大好きです!!
しかし今回の毒虫はアールヌーボー調に立体装飾されています。色
調に立体装飾されています。色はどちらかというと褐色系です。お気に召さなければ、変身後に御自分でペインティングなさってください。
6月18日 13時8分
質問29
k1san (*):
マシンを起動させてから変身が完了するまでにはどのぐらいの時間がかかるのでしょうか?
samsa0 (*):
マシンの起動から完了までですが、起動(電源オン)から変身可能状態になるまで約20秒、それから変身開始まで2分〜2日くらいです。ちなみに変身開始から変身完了までの体感時間は3年くらいと考えてください。
6月18日 13時33分
質問76
swiwamo (1): 赤く塗ったら、3倍早く変身できますか? 6月19日
16時52分
答え
samsa0 (*): それは気づきませんでした。今度実験してみます。
6月20日 1時28分
かい人二十面相
わし あさ おきたら どく虫なってた
へんな ゆめ 見たと おもたんや
グリコに どく いれたろ おもてたら
わしの からだから どく でてしもた
山川出版社@世界史用語集
* * *
ザムザ Gregor
Samsa H 1883〜1924 二十世紀実存主義文学の先駆けとなった毒虫。自己存在の毒虫性を発見した経験を基に,背面甲殻の硬度,弓形褐色腹部の球形性,分岐性を説き注目を集める。((→p.297))
* * *
マーフィーの法則
1、起きて欲しくない事に限って起きる。
例:朝起きたら毒虫になっている。
2、変化した事の利点は、それ以前に比べると少しも利点とはなっていない。
利点と思えるような事は、よく考えると、逃避である。
例:背中が固く、防御力もあがったが、動きにくいので±ゼロである。
足の数が増えたが、指の数は減っているので、むしろマイナス要素が強い。
3、その現象は不可逆で、終末は悲惨である可能性が高い。
例:リンゴを背中にぶつけられ、虫であるがゆえにそれが致命傷となった。
共同通信
[共同]◎プラハ市民が毒虫化 原因・対処法わからず
【プラハ28日カフカ特派員】プラハ市内の一市民が巨大な毒虫に変わっていたことが、27日までにわかった。本人はもとより専門家も大きな衝撃を受けている。
毒虫に変わっていたのは、プラハ在住の男性、グレゴール・ザムザ氏(28)。警察によると、ザムザ氏は、不安な夢から目覚めると虫に変わっていたと主張しているという。背中には固い甲殻があり、腹部には弓形の固い節で分け目が入っており、褐色で丸くふくらんでいる。当局や専門家も原因がわからないため首をひねるばかりで、何ら有効な対策はいまだとられておらず、今後議論を呼ぶものとみられている。
文学者フランツ氏の話 このような話はいい題材になります。ぜひ取材して彼の内面を描き出してみたい。
萩原朔太郎
朝なりき
ひどくねばねばとした夢から覚めたるに
ザムザ、虫になり果てた我が身を認めむ
虫、虫、虫
虫なりき
巨大なる
褐色の
堅牢なる外骨格に守られた
虫!
そは哀しき甲虫類の幻灯よ
ナボコフ
ドクムシ。我が孤独な運命、我が無為なる存在。我が罪。我が魂。ド、ク、ム、シ。
舌の先が口蓋をたたき、三度すぼめた唇を、息がかすめる。ドクムシ。
朝、シーツを褐色の節くれだった腹に引っ掛けた私はドだ。ただのドだ。哀れなほどか細い足を震わせるとドクだ。会社ではグレゴールだ。正式にはグレゴール・ザムサ。
しかし今朝悪い夢かせさめてみるとドクムシだ。
坂田信弘@風の大地
朝目覚めて、虫になった男がいた。
けして後ろを振り向かぬ男であった。
インパクトの瞬間に、すべてをかけ、後悔を知らない、男がいた。
誰かが言った。
鹿沼には神の風が吹くと。
鹿沼には虫がいると。
鹿沼の夏。
グレゴール・ザムザ、25歳と8ヶ月の青春。
日本国憲法第一章
第一章 ザムザ
第一条 ザムザは、プラハの青年であり不安な夢を見たあとであつて、この不安は、主体の存するザムザの内心に基く。
第二条 ザムザは、人間であつたが、視界の認識した図像の認めるところにより、これを毒虫化する。
第三条 ザムザの自己認識に関するすべての行為には、家族の助言と承認を得られず、ザムザのみが、その不安を負ふ。
第四条 ザムザは、毒虫としてなしえる行為のみを行ひ、人間に属する表現権能を有しない。
2
ザムザは、作者の定めるところにより、その内心に関する吐露を作者に委任することができる。
第五条 視野に見える領域の定めるところにより、前屈をするときは、ザムザは、固い甲殻を下にしてその前屈に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第六条 ザムザは、仰向けの姿勢に基いて、毒虫化状態を確認する。
2
ザムザは、仰向けの姿勢に基いて、ちょっとばかり頭をもたげる。
第七条 ザムザは、自らの視野確認と認識により、自らの体に、左の毒虫に関する状態が存在していることの確認を行ふ。
一 不安、夢、寝覚めを認識すること。
二 ベッドの中にいること。
三 仰向けに寝ていること。
四 とてつもなく大きな毒虫であることを認識すること。
五 固い及び下になっているその他の性質を有する背中の状態を認証すること。
六 少しばかり頭をもたげてみること。
七 腹部を見ること。
八 腹部が弓形及び固い節その他の分裂状態にあることを認証すること。
九 腹部の節の色が褐色であること。
十 節は膨らんでいること。
第八条 ザムザがベッドから出て行動し、又はザムザが、家族と接し、若しくは接することを拒否されることは、ザムザの外見に基かなければならない。
楳図かずお
ぱちっ(目が覚める音)
あっ!
わ、わたしの体が ど、毒蟲にっ!
ああっ、り リンゴが!リンゴが落ちてくる!
ギャッ!
武者小路実篤
或る朝,ひどく胸苦しい夢から目をさますと僕は,少し毒虫になつたらしい。
人間もいくらか毒虫になつたらしい,人間としては少し毒虫になりすぎたらしい。いくらか巨大だつたかも知れないが,毒虫になつたのも事実らしい。しかし本当の人間としてはいくらか巨大だつたのも事実かもしれない。本当の事はわからない。
しかし人間はいつ一番毒虫になるか,わからないが,少しは巨大だつた気でもあるやうだが,事実と一緒に毒虫になつたと同時に少し頭もにぶくなつたかも知れない。
まだ少しは頭も毒虫になつたかも知れない。然し少しは進歩したつもりかも知れな
まだ少しは頭も毒虫になつたかも知れない。然し少しは進歩したつもりかも知れない。
ともかく僕達は少し毒虫になるつもりだが,もう少し毒虫になりたいとも思つてゐる。
皆が少しづつ進歩したいと思つてゐる。人間は段々毒虫になり,進歩したいと思ふ。皆少しづつ,いゝ毒虫になりたい。
いつまでも進歩したいと思つてゐるが,あてにはならないが,進歩したいと思つてゐる。
僕達は益々毒虫になり,いろいろの点でこの上なく毒虫になり役に立つ毒虫になりたいと思つてゐる。
人間は益々毒虫になり,今後はあらゆる意味でますます大きくなり,生き方についても,万事変身したいと思つてゐる。
ますます毒虫になり,万事変身したく思つてゐる。我々はますます毒虫になりたく思つてゐる。
毒虫万歳。
カー・グラフィックTV
(古屋徹のナレーション)
「朝靄の中、丸いボディーに身を包みながら
ゆっくりと、しなやかに動き出す、一台の褐色の毒虫。
そう、これこそが、グレゴール・ザムザ、
1900年代初頭にチェコはプラハのコーチビルダー、
フランツ・カフカが世に送り出した
傑作ライトウェイトミドシップである。
第一次世界大戦の後、ドイツに訪れた「表現主義」の
流れの中にあって、天才フランツ・カフカの手によって作られた
ザムザ、つまりこの「変身」は、その後約100年もたった現代まで、
当時のセンセーショナルさを全く色褪せることなく
鑑賞に堪えている数少ない作品とも言え
鑑賞に堪えている数少ない作品とも言えよう。
固い甲殻の背中を持ちながらも重量がわずか900kg、
腹部中央に縦置きされた2000ccの自然吸気エンジンの脇には
この車最大の特徴である弓形の固い節の分け目が
整然と並んでいるのが見える。
このカフカ独特のシャシー設計があってはじめて
ザムザの類を見ないほどに軽快な走りが実現したといえよう。」
松任谷「いやぁ、田辺さん。・・・・毒虫。・・・ですね、ついに。」
田辺「ついにというか、ようやくというか。」
松任谷「ええ・・・。(後ろを向いて)やはりこう、目の前にすると、
威圧感というか凄みのようなものを感じてしまって、
なんだか圧倒、されませんか?」
田辺「いや、威圧感というか・・、ボクには、なんだろう、こう・・・
かわいいじゃじゃ馬、のような、そんな風に感じるんですけどもね。」
松任谷「じゃじゃ馬。ですか?」
田辺「松任谷さん、実はこれボク、一度ヨーロッパで乗ったことがあるんです。」
松任谷「・・・」
田辺「でね、そのときの印象が、こう、まさにじゃじゃ馬というか
乱暴なんだけど可愛らしくて仕方が無いっていう、そういう
記憶だけが鮮明に残っているんですよ。」
松任谷「・・ボクにはやはり、毒虫っていう印象から来る
物々しさというか、そういったものを感じてしまうんですがね。」
田辺「なるほど。」
松任谷「じゃぁ、今日はその田辺さんの言うじゃじゃ馬の
鮮明な記憶が再確認できるか、楽しみですね。」
マギー司郎
あ、どもどもね、こんにちわ、
いつも、どうしようもないマジックやってる、あいつはいんちきだ、
なんて言われるけどね、本人も知ってるからね、言わなくてもいいからね。
あ、でも言われてばっかりじゃ悔しいから、
今回は、ものすごく大掛りな、マジック、やってみるからね。
これなんて、水海道のおばあちゃんに、すごく受けたんだけど
これなんて、水海道のおばあちゃんに、すごく受けたんだけどね。
自分の体が、朝起きたら、毒虫になっちゃうっていうね。
あれ、そこのお母さん、信じてない?また、インチキばかりいってるって?
でもほら、このお腹、みてちょうだい?ほら、真っ黒で、割れてるでしょ?
まあ、これは朝起きたらこうなってたってだけで、種もしかけもないんだけどね。
な〜んだ、って思った?やっぱりマジックじゃないよって?
じゃあ、ついでに、この、リンゴが消えちゃうってマジックはどうかな?
このリンゴをね、天井に放り上げて、消しちゃうというマジックね。
はい、ほおりあげて、1、2、3、ほら、リンゴ、床に落ちないできえたでしょ?
珍しく、成功したね。それじゃ、ども、ありがと。
(退場するザムザの背中に刺さったリンゴ。客席からは爆笑と拍手)
医師国家試験 E問題
x才の男性。著しい外観の変容を訴えて来院。全身性外骨格化が顕著、甲殻に包まれた背部翅状化、腹部弓状結節化を示す。意識清明、外気温による体温変動を認める。来院前夜の悪夢訴え有り。
この患者に最も適切な治療はどれか。
a イミプラミン投与
b 副腎皮質ステロイド薬の結節腔注入
c 鏡視下背翅切除術
d フランツ・カフカ法による外骨格内翻転
e 仮面ライダーへの転職指導
京極夏彦
−夢を見た。
夢の中で虫となり、空を飛んでいた様に思う。
私は子供の頃より虫になる夢をよく見る。
そもそも、私は虫が大好きで、小さい頃は虫を捕まえ虫かごの中で飼う事がよくあった様におもう。しかし、何故かは知らぬが大抵がすぐに死んでしまった。
子供の頃はそれでも、単に虫が好きなだけで、それ故この様な夢を見るのだと思っていた。
しかし、成長するにつれ、夢は収まる所か見る回数は増えていき、ついには本当に虫になりたいと思う様にさえなっていった。
もちろん、起きた時に虫になっていた事など一度もなく、だから、虫になる事などあり得ないとあきらめていた。今朝、目をあけるまでは。
目がさめた。
まぶたを開けてみると、6つの節に分かれた褐色の腹が網膜に飛び込んできた。
頭の芯がとろける様でしばらくぼっとしていた。
でも、いつまでたっても頭のかすみははれることなく夢と現実の境目をふらふらしている。
体を起こそうにも、手も足もうまく動かない。
そもそも手と足の区別がなかった。
部屋の中は薄暗く、とても静かだった。まだ、夜明け前なのだろうか。
カサカサという手足の音とどくどくという体から流れ出る毒液らしき液体の音だけが響いている。
この状態が死ぬまで続くのだろうか。
息苦しい。
頭がしびれる。びりびりしびれる。
人を呼ぼうにも、声が出ない。そもそも喉がなかった。
恐ろしくなった。これでは毒虫だ。永遠に続く無間地獄の責め苦じゃないか。
ああ、私の昔飼っていた虫たちが羨ましい。あの虫たちはこれを知っていたから早く死んだのだな。
そうだ。気が狂ったのだ。気が狂ったのだと思えばいい。狂気の胡乱な意識が幸せにしてくれる。
いや、妄想かもしれない。限りなく狂気に近い妄想だ。
でも、私は正気だ。
私はグレゴール・ザムザだ。
それとも私は人間ではないのか。
私の中で、毒虫と人間、狂気と正気が同居し始めている。
グレゴール・ザムザというものはもうなくなってしまった。
拡散する。霧のように私は手足の隅々にまで充満する。私は毒虫の形になる。
隅々にまでぴったりと融合していく。
ちっとも幸せじゃないじゃないか。
私の殺した虫たちの臓腑が私の脳髄
私の殺した虫たちの臓腑が私の脳髄に充満する。人じゃない。虫でもない。私の中をどろどろ流れるのは腐肉の肉汁だ。
私は腐肉を喫らって生きる毒虫の化け物だ。
そうだ、私は妖怪だ。
私の肉体を形成しているのは訳の分からない妖怪なのだ。だから私の実体は私の意識ではなく妖怪なのだ。
私は毒虫の妖怪だ。
窓の向こうで声が聞こえる。
助けてくれ、私は毒虫じゃない。人間なんだ。
こめかみに力を入れると私の人間としての輪郭が少しだけはっきりした。もっと、もっと力を入れる。
「ほう。」
私はそれだけしか言葉が喋れない。
ネタが多くなってきました。
選者の文学的素養の低さがわかるというものです。
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