文学館?

 

とあるサイトで文体模写をしておりました。お気に入りの文体をセレクトしてみました。

原文はこれです。↓カフカの「変身」ですね。



ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドの中で自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。固い甲殻の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるくふくらんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。

夏目漱石

星新一

爆笑問題

坂口安吾

江戸川乱歩

井上ひさし

大江健三郎

ダニエル・キイス

『噂の真相』1行情報

筒井康隆

太宰治

田中康夫

村上春樹

宮台真司

三代目魚武濱田成夫

牧伸二

吉本ばなな

椎名林檎

中島敦

三島由紀夫

ムツゴロウとゆかいな仲間達

ナンシー関

スタパ斉藤

Visual Basic

鳥山明

相田みつを 

ドラゴンクエスト

藤子不二雄F

古今亭志ん生

原田宗典

ファミ通クロスレビュー

西原理恵子

readme.txt

景山民夫

椎名誠

ファミ通ゲーム帝国

点取り占い

横山やすし

養老孟司

中島らも

色川武大

サン・テグジュペリ

夢野久作

橋本治

小沢健二

夢枕獏

小林秀雄

モンゴメリ

 

 

 

 

 

 


夏目漱石

 

吾輩は毒虫である。名はザムザという。なんでこうなったのか頓と見当がつかぬ。何かしら不安な夢を見ていた気がするが、夢とは動物の体をかくも変化せしめる程のエネルギーを持っていたかしらん。腹にうじゃうじゃついている足が気色悪いのだがそれを舐める舌もない。あれほど好きな毛繕いももう出来ぬのだろうか。今の現実こそこれ悪夢である。主人が吾輩を見れば何と言うだろうか、「ごろごろ虫みたいに寝転がってるから、本当に虫になりおった」主人が吾輩の姿を見る時は吾輩が家で休息しておる時か、珍しく躁鬱の気が消え落ちついて外界を見ることが出来るようになった時である。したがって吾輩の外での勇猛果敢なる活躍や、疳の虫が爆発した主人の目に止まらぬよう家を駈け回る敏捷な姿を主人は目にしていないのである。いつもごろごろなどとは腹立たしい。最もまだそう言うと決まったわけではないのだが。あの主人なら巨大な毒虫がかつての愛猫だったと気付くことすら無理かもしれぬ。とにかく困った。



坂口安吾

 

グレゴール・ザムザ氏は物に動じない傑物として近所には周知されている 人物であるのだが、その日の朝はいささか勝手が違った。まず氏は、下宿で 目覚めたとき自分と布団の間の具合がいささか妙な具合なのに気づいたのだ。
「ふむ、変だ。俺はなんだか転がるようだ」
それもそのはずで、彼の背中はころころとした固い甲殻に覆われていたのだ。 彼はその抜きんでた合理性を発揮して、さらに体の各部を子細に点検してみ たのだが、その結果判明したところでは、腹はよく見ると節目が入って色も茶色 で、頭部もうまく回らないようになっている。
「ハハア、どうやらこの形は虫らしい。いやどう見ても虫だ。それも見たところ 毒虫と言っていい風情だ。うむ、これは困った具合になったぞ。」
氏が困ったと告白するなどというのは10年にいっぺんかそこらあるかないかの 挙と言っていいことである。



大江健三郎

 

いったいこの世で人間が虫に変わるなどということがあるのだろうか。僕でさえ そんなことは夢想だにしたことはないし、それが自分の身にふりかかってくる とは思いだにしなかったことであるのだが、いざそうなってみるとそれは既に 避け難い事態であるのがはっきり理解できたし、またそんな現実からは目を 背けたいという欲求と戦うことが難しいものであるのも事実として実感できた。



筒井康隆

 

朝目覚めたら虫になっていた。妻も子供は驚いて家から駆け出して逃げていき、 はずみで玄関の角にごんとぶつかって「ぎゃあ」と叫んだ。
「なんだこれは。こんな不条理なことがあるか。俺にこんなひどいことが 起きていいはずはない。」
俺は叫んだ。今日は会社で取引先と大事な会議があるのだ。こんな体で出勤しよ うものなら、あのでぶでいやみな部長がそれこそ喜んで俺を呼び付けて、
「君、今までも君はずいぶん酔狂な男だと思っていたが、今日はまたさらに 輪をかけて酔狂じゃないか。これはなにかね、私への嫌がらせかね。いやそうだ、 そうに決まっている。君は前からなにかにつけて私に嫌がらせを続けてきたんだ」
などとねちねちと小言を言い始めるに決まっている。



村上春樹

 

目が覚めると、右のこめかみがちくちくと痛んだ。それはまるで小人が針を突き刺しているような感覚だった。 口の中はからからに乾いていて、何とも言えない不快感があった。
何となく、自分の身体が、自分のモノではないような、そんな感触だった。ぼくはゆっくりと手をのばして、自分の存在をひとつひとつ確かめようとしたが、うまく身体に触れることができない。かろうじてわかったのは、それは人間の肌ではなく、つるつるとした、大理石の床のような感触だった。
おかしいな、と僕は思った。いくらなんでもそれはないだろう。 たぶん、いつものように顔を洗って、丁寧にひげを剃れば、そんな不快感はきれいさっぱり忘れられるんじゃないかと思った。
しかし、そうはいかなかった。



牧伸二

 

起きたらなんだか変なのよ〜
毒虫になったみたいなの〜
家族はみ〜んな知らんぷり〜
犬まで無視してドッグ無視(笑)〜
あ〜あ〜あ, やんなちゃった〜
あ〜あ〜あ〜あ, 驚いた〜



中島敦

 

夜が明けて数刻、床にて不快なるを憶え起き上がろうとするも、
節々に蟠る焦燥が俄かに異変を訴えると、己の姿が奇妙極まる
毒虫になっているのを知った。まだ夢に違いないと自嘲を含めて寝返りを
試みるがそれさえままならず、粛然と白みはじめる朝もやのなかを
勇んで出勤できそうにない自分を悟り、深く恐れた。



ナンシー関

 

朝起きたら虫になっていたのである。
なんて唐突に始めてしまったが、 私は今、この現象と前夜に見た情けない夢との相互関係について考えている。
ま、どうでもいいことだが。とにかく「虫問題」である。
たとえば歌手が別のジャンルに転身するというケースはよくあることだが、 人が虫に変身するなんて話は聞いたことがない。で、観察してみたわけだ。
日曜日の午後に。テレビつまらんし。
それで仰向けになってみて思ったのは、腹部の形状を伝えるときに、弓形の 節で分かれていて線がいくつもあると言うよりも、 横分けのおやじの頭に近いと言った方が理解しやすいのではないか、 ということだった。
腹がパンチョ伊藤というのも、なんだか悲しい現実であるが。



鳥山明

 

オッス!オラ グレゴール・ザムザ!



藤子不二雄F

 

N「うわ〜ん」
D「ど〜したの のび太くん そのかっこ」
N「めがさめたら毒虫になってたんだ このままじゃママにおこられちゃうよ」
N「たすけてドラえも〜ん」
D「まかせといて〜 "タイムふろしき〜"」



ファミ通クロスレビュー

 

自分が朝起きてみたら虫になっ
ていたという演出は斬新だが、
毒虫ということで感情移入はし
づらいなあ、自分視点なのに名
前が変えられないのも×。折角
のリアルな設定が生かしきれて
いず危機感が伝わってこない。
シュールな雰囲気を楽しみたい
人にのみお勧め。虫コン必須。 5点



景山民夫

 

朝起きたら、虫になっていた。
「冗談じゃねえぞ。何で俺がこんな風になんなきゃいけねえんだ。」
と思ったが、本来、人間の意識や感情の変化が外形に変化を与えるように なる。ということは実は頻繁にある(悪人顔などがそうだ)。 どうも昨晩見た虫の夢が、私自身の身体に劇的な変化をもたらした 様である。
そもそも人間の意識というものは、本来「祈る」という行為そのもの から派生して、その人間の行動規範やライフ・スタイルを形作っていくように なるのではあるが、従来その「祈る」という行為は、行動を伴って 現れるものではない。そんな大げさなものでなく、「善なる意識」といった 方が分かりやすいかもしれない。
すなわち、僕の生活する…(以下略。)



点取り占い

 

   む  あ
   し  さ
   に  お
   な  き
●  っ  た
3  て  ら
点  た
   よ 



中島らも

 

朝起きたら、虫になっていた。
「どないなっとんじゃー。」と叫びそうになった。
ラリっているのかと思ったが、薬はもう何年も前に止めている。
とりあえず、Fに電話しようと思ったが、
「おっさんは、酒飲んでごろごろしてるからそうなんたんじゃ。」
などと言われ、指を指して嘲笑されるのは目に見えている。
「俺だって、好きでこうなったんじゃないわい!」
などと天井に向かって叫んでいるうちに、打ち合わせの時間になってしまった。
…まあいいや。1杯やろう。



夢野久作

 

..ボーン、ボーン..。グレゴール・ザムザは何とも言いようの無いトテモ不安な夢からふと覚めてみると、布団の中の固い感触に気がついた。ナンダこれは..それに私はいつもベッドで眠っていたのじゃなかったっけ? 頭をもたげて掛け布団のなかを覗いてみると、腹部が奇妙に丸く変形していた..しかも固い弓形の節で分け目が刻まれている..その褐色の皮膚の気味悪さ..。ああ、ソウだったのか、おれは毒虫だったのか、おれは人間のつもりでいたキチガイ虫だったんだ...ボーン..ボーン..。



夢枕獏

 

「ぞわり……」暮郡寒佐は朝目覚めたとき貌に言い様のない違和感を 感じていた。
黒く油光りしながら長く伸びる双つの翳。
それが、ぞわりぞわりと左右に揺れているのだ。
それは確かに・・・触角・・で・あった。
「へひぃ…」
これは一体何なのだ。悪夢か。このようなことがあるわけはない。
これは夢だ。そうに違いない。
寒佐は声をあげ悪夢から遁れようとした。
あげぇぇぇぇぇぇぇ.......
声にならない叫び、それは口から発せられたものでは無かった。



星新一

 

ノックの音がした。
それで目を覚ましたエヌ氏はベッドの上で首をかしげた。

うまく起きあがれないのだ。昨日酒を飲み過ぎたわけでもないし、
スポーツをしてで筋肉を使いすぎたわけでもない。
といって、昨夜遅くまで残業していたわけでもないし、
はて、何も思い当たらないのだ。
おかしな事もあるものだと思い、エヌ氏は自分の体を見て驚いた。
エヌ氏は巨大な毒虫になっていたのだ。
「これは、一体どうしたことだ?」



江戸川乱歩

 

この話が私の夢か狂気の幻でなかったら、あの毒虫になった男こそ狂人であったに 相違いないのでしょう。それはある蒸し暑い朝のことでした。 呼び出されて彼の部屋をおとづれますと、彼は寝床に入ったままこう言いました。
「どうだい、面白いものをみせてやろうか。これを見たまえ。」
彼にそういわれて彼の体を見ますと何と言うことでしょう。 彼はおぞましき巨大な毒虫の体で、体はぬめぬめと黒光りし 無数の足は不気味にうごめいているではありませんか。
アッと私が声を上げますと彼は不気味に笑いながら
「どうだい、素晴らしいだろう。これが僕の理想の姿なのだ。アハハハ」



ダニエル・キイス

 

けえかほうこく

あさおきるとおおきなむしになていました。とてもこわいゆめをみたのです。
せなかがとてもかたいのわしたになています。おなかおみるとまるくてちゃいろくてせんがはいています。



太宰治

 

朝、ベッドで不安な夢から、ふっと覚めてザムザが、
「ぶ」
と幽かな羽音をお立てになった。
「毒虫?」
カタい甲殻の背中を下にして、仰向けになっているのかしら、と思った。
「いいえ」
ザムザは、何事もなかったように、はたはたと羽根をゆすらせた。
それは所謂正式礼法にかなったはばたき方では無いかもしれないけれど、
私の目には、とても可愛らしく、それこそほんものみたいに見える。



宮台真司

 

僕が大変気になるのは、今回の事件はですね、例えば、 「これは昆虫採集が悪いんだ」っていう形で、 昆虫採集を中心とした自由研究ないし夏休みの宿題に 原因を転化するような言説が、かなり当初から、 つまりグレゴール・ザムザが14歳の少年だって 分かる以前から行われております。
さらにですね、TBSの「ニュース23」における 高校生の問いかけ、「なぜ毒虫になってはいけない のか」に、知識人と言われる連中が誰一人満足に 答えることができていない。ここに日本の民度の 低さが、象徴的に現れてきている。



吉本ばなな

 

虫になった日の朝のことを、今でもよく思い出す。

不思議と哀しくなかった。たぶん事態がよく飲み込めていなかったのだと思う。
しばらくの間、からだの節々をぎくしゃくと動かしたり、たくさんの手足を 一本ずつ動かしたりしていたが、すぐに疲れてやめてしまった。

波の音が響くのが聞こえた。静かで穏やかで、それでいて力強さを感じさせる その音は、今まで聞いたどんな音よりも美しく、だからこそ、切なかった。
目を閉じると、波の音が不思議なエネルギーとなって全身に伝わっていき、 頭の中が金色に染まっていった。

その時、実感した。
私は、虫になったのだ。



三島由紀夫

 

目が覚める前から私は自分の姿が毒虫になっているのを 知っていたように思えてならない。と言うのも、私はこの奇妙で 滑稽な事件に対してさしたる不安も恐れも抱かずに低血圧の 茫洋たる大海に浮沈しつづけるような虚ろな惑溺に陶然として いたからだった。むしろ私が乱れるべきは、毎朝の隆々と欲望を叫ぶ そそり立った「悪習」の因である下腹部の圧迫感が、今朝に限ってないことだった。 私は事態の侮り難さを認めた。それはいわば私の人生に課せられた「革命」 とでも名付けられる神の挑戦だった、否、私のプラトニックな性愛を砕こうとする 神の嫉妬に違いなかった。



スタパ斉藤

 

ぬおーーー何だぁこりゃあ、すげーぜ!すげーぜ! ってんで朝一で毒虫になってみた。ていうかなってた。
さて、なんつってもイイのがその大きさだ。 俺のベットにフィットフィットのフィットチーネ。
その上さらにイイのがボディーの高級感で、甲羅は とにかく固いんだよね。ちょいと仰向けになって 頭を上にすると、すんなりまるくなるんだな。
このサイドの間接構造が超イケててカラーも褐色と 申し分なし。もうすっかりハマっちまったぜ。



相田みつを

 

ふあんな夢をみて
大きな虫となったが
だけど生きていれば
きっといいことがある
どくむしだって

        __
   みつを  |み|
         ̄ ̄



古今亭志ん生

 

 エー・・・えへん。・・・虫というものはぁ、実にコノ奇妙ないきものでして・・・。
しかしまた・・・落語のほうには、わざわざこれを食してみようなんてぇおっちょこち ょいが・・・・かならず出てくるもんで御座いますな。

 どんどんどん! オイ、ざむざッ、いるんだろッ。いたら返事しろいッ。・・・なんだい寝てるんじゃねぇか。・・・おいッ。どうしたんでぇそのなりは。妙に黒光りして、足ィ天井へ向けてつっぱらかって。どっか具合でも悪いの?足がこんなに節くれだっちゃって・ ・・・ひぃふぅみぃよ・・・・おどろいたね、六本あるよ。・・・こりゃ虫だね。
 そいや昨日の晩、湯の帰りにこいつに会ったら、こんなでっけぇ毒虫ぶるさげて歩いてたよ。それどうするんだって聞いたら食うって言うから、おめぇこの陽気にそんな虫食ったら当たるぞって言ってやったのに、食いやがったんだな。えぇ?・・・どうも、おどろいたね。虫食って虫ンなっちゃったよ・・・。ひどいねどうも・・・・まったく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・(居眠り)。

(観客)しーっ、起こすな。寝かしといてやれよっ!!



西原理恵子

 

虫とわたくし 

目が覚めたらいきなり毒虫になっていた。
「ふおおおおお。マブかよおおおっ。」
ケツの穴が一瞬おっぴろがったぞっ。30数年生きてっけどこんなにパンチの効 いた目覚めははじめてだっ。前夜バカラでかっぱいだ金で筋の切れるよな大宴会を 開いて大どんちゃんさわぎ。その後はわたくしの頭に濃ゆい霧がたちこめたので何 にも覚えておりません。二日酔いはないが、背中は固い甲羅、腹なんざ脂ぎった肥 満中年のよに丸くお洒落な弓形の固い節の分け目つきで、まさにお好きな方にはた まらない状態。朝からがっちょりおチャクラ全開。
鴨はすでにウオトカを飲んであんなに遠いところにいっている。
「ちょっとまてコラぁおどれはあたしをおいていくんかいっ!」
ピンチの時は酒を沢山飲んで自分を解らなくするのが一番。
とにかく気合だあっ 左わきえぐりこむように飲むべし飲むべしっ
ごっきゅごっきゅごっきゅ…



椎名誠

 

ともあれおれは虫になった。
虫はなってしまうとなかなか悪くないものである。
脱皮後のビールなどはウフフまいちゃったなあ、と急速に好々爺化してしまうほどのうまさだった。
しかしおれが毒虫だと知ってしまった犬のガクは、おれが近寄ると戸惑い気味にきゃいん、と鳴くようになった。
妻にも悪いことをしたと思い、濁り目のイサオと沈んだ酒を飲んだ。



横山やすし

 

ちょー待たんかいや、なんやこれ!。なんや悪い夢みた思ったら、まだこれ夢の続きか?。
どないなっとんねん。これではワシ、まるで毒虫やんけ!。えー加減にせーよ。怒るで、しかし・・。
背中にゃ固い甲羅ついてるし、首はよう回らんし、わっ、わっ、ワシの腹、なんや段々畑みたいやんけ!。 それとメガネはどこや、メガネ!。メガネ。。。メガネ。。。

あ〜、ワシもう終わりや〜、もう舞台立たれへん。こんな姿、人に見せられへんがな。
なあ、もうワシ、漫才でけへんのけ?。もうセスナにも、ボートにも乗れんのけ?。キー坊、なんか言うてや?
なあ、なんや、ワシ、泣けてきたがな・・・。勘弁してーや。頼むで、しかし・・・。

 


色川武大

 

私にはナルコレプシーという奇妙な持病があって、朝などにふっと その気配を感じた時には気持ちがすうっと縮こまってしまう。
それがもう敵のペースになった徴で、こちらには全く態勢の造り様 などないうちに、ズキン、とかすかなショックが頭にくる。
ああまたかと思う間も無く幻覚症状の始まりのようだ。
手足の端々から生え出てきたのは毒を持った棘であろうか。
ズキン、と先ほどより少し大きい一撃がくる。
それにより背中が硬質な殻で覆われて居たと気付かされる。
どうやら腹は褐色の節々で分たれて居るらしい。 今度の趣向は毒虫なのか。

 


橋本治

 

今日、ムシになってた。
アー、ホントに声出しそうになっちゃった。ムシよムシ。信じられる?
しかも毒虫じゃない? バカにしてるわよねぇ。チョウチョとかテントームシとかならまだしもサッ! すさまじく失礼じゃないッ?
だいたいさーァ、イヤな予感はしたのよ。イヤーな感じの夢みたしサ。寝覚めがワルイとかって、ムカシの人はよく言ったもんよね。
朝起きて突然、自分の足に節がついてるのソーゾーしてよ。目もあてらんないわよ。
そりゃあ、もっと足が細くならないかなァ、なんて思ったこともあったわよ。でもネェ、ここまで細い必要ないわよ。そうでしょう。仮にも十五の少女よ。丸みだって必要じゃない。屈辱だったらありゃしないじゃない。頭きちゃうわよね。あーあ……。まぁいいんだけどさ……言ってもわかってもらえないだろうし……。アー、これからどうしよっかなア。

 


小林秀雄

 

 ある朝俺が起きると、虫になっていた。それは大きな毒虫である。頭を上げてみたが、節のある腹が見えたに過ぎない。そこに掛け布団が掛かっている。本数の多くなった足が目の前にある。それは悲しいほど痩せ細っているのだ。

 俺に何が起こったのか、とふと思う。夢ではないのだ。書棚に本が不規則的に並べられていて、古ぼけた古備前が置いてある。これは違う事無く俺の部屋である。夢などではない。俺は文芸評論家であった。だが、それが「私」という奇怪な現存に何の関係があるのであろうか。私の表現なんていうものはない。そんなものは誰にもできない。「俺」は虫である。それ以上に何も言及することなどない。



爆笑問題

 

太田 へんな夢みちゃってさ。
田中 どんなんだよ。
太田 お前がお笑いやってるんだ。ありえないよな。
田中 なんでだよ。俺はお笑いだよ。
太田 不安で、不安で。
田中 なんで不安なんだよ!話がわかんねえよ!
太田 で、毒虫になっちゃったわけ。
田中 ますます、わかんねえよ!



井上ひさし

 

《ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、 ベッドの中で自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に 変わってしまっているのに気がついた》
 引用でともかくも枚数を稼ごうと思い、だらだらと書き写していて、ふと気づいた。ザムザは自分のことを毒虫、と語っているが、なんだか変だぞ、と感じたのだ。
 試みに手元の辞書を引いてみると、《毒:1)害するもの。2)毒薬。3)わざわい》とある。してみると毒虫とは、他人を害したり、災いをもたらしたり、毒薬を注入したりする虫の謂いである、といえよう。
 しかしこの長からぬ小説を隅々まで読み通してみても、虫と化したザムザが他人を害したり、わざわいをもたらしたり、毒薬を注入したりといった場面はまったく見あたらない。むしろザムザの方が、他人から害されたり、わざわいをもたらされたりして、最後は死んでしまうのだ。
 してみるとザムザが化したのは毒虫ではなく、被毒虫ともいうべきものなのだなあ、と、禿筆を舐めながら筆者は考えた。



『噂の真相』1行情報

 

グレゴール・ザムザが虫になったのは文学的不条理が原因との噂



田中康夫

 

7月19日(水)

吉川十和子的”白痴美”スッチーY嬢と銀座のなか田。価格の高さのみ一流との結論で一致を見る。ニッポンレンタ。ウェスティンンホテル大阪。シャトー・ポン・カネ89を抜栓後にPG。爆睡。

7月20日(木)

朝、極めて大きな毒虫に変わってしまっている。こそばゆい。可及的速やかに頭をもたげると、固い甲殻の背中を下にして仰向けになっている。一体、如何なる勘性・心智の持ち主なのか。褐色の弓形の固い節が在るべき姿であろうに。分け目をいれられた下腹部が”ひ弱なれど自力本願な無欲の都会人”のインポテンツ振りを物の見事に照射してはいまいか。筑紫サロン哲也チェンチェイも遅蒔き乍ら己の透視能力の無さに気付いたか。
机に向かうも頓と進捗せず。堪え切れずに一人でONの後、吉野家。極めて秀逸。



三代目魚武濱田成夫

 

 たとえ毒虫であろうとも

朝起きたら毒虫になっとった
神さんも粋な演出や
なかなか気分爽快やないか
俺はたとえ毒虫であろうとも
世界中の女をおとす自信はある
さあ世界中の女どもよ
パンツを履き替えて待っとれ



椎名林檎

 

「毒虫デキストリン」

此処で目覚めた倦怠感がマザーテレサを犯して
其れが遂に朝焼けを蹂躙して云う
貴方が居ないが故に
あたしは今日も毒虫になっているのです
褐色艦隊喀血快感なんて厭
毒虫に捧げる愛など無い



ムツゴロウとゆかいな仲間達

 

#幻の巨大昆虫「ザムザ」に会うため、はるばる旅したムツゴロウさん。
ドイツの町を探し回ること一週間、ついに感動のご対面!!

 

おぉ〜〜〜っ、いましたねー!!
うっわ〜〜っ、おっきいですねー!!
このザムザという虫はですねー、ふだんは非常に警戒心が強いんですねー。
(ザムザの頭をなでる)
あっ、ほら触角をぐるぐる回してますねー。これは機嫌がいい証拠なんですねー!!
よーしよーしよしよし。いま彼は仲間と遊びたい気分なんですねー。
(ザムザに抱きつく)
うお〜、やっぱり脚の力は強いですねー。うほ。うほ。よーしよーし。
(ザムザの口に指を突っ込む)
見てくださいこの大アゴ!! このアゴで本気で噛まれたらひとたまりもないですねー。
大人の指だって食いちぎる力がありますからねー。よーしよーし。
(ザムザ、指を食いちぎる)
うっ・・・・・。彼はですねー、ずっと長いことこの部屋にひとりでいたんで、
寂しかったんですねー。私に会えてあんまりうれしかったんで、つい力がはいって
しまったんですねー。ん〜〜もう大丈夫だよー、よーしよしよしよし。
(ザムザの腹に馬乗りになる)
それにしても見事なお腹ですねー。この褐色の、弓形の節がザムザの特徴なんですねー。
一見柔らかそうですが、ほら、こうして体重をかけてもけっこう大丈夫なんですねー。
(ザムザ、ムツゴロウの腰に毒針を打ち込む)
ぐっ・・・・・・・・。こっ、この針はですねー、生殖管も兼ねているんですねー。
つまり彼は・・・私を交尾の相手と・・・見なしてるんですねー。これは最大の愛情表現なんですねー。

#ザムザとすっかり打ち解けて大満足のムツゴロウさん。CMのあとは、いよいよ 世界初公開! 巨大昆虫料理にムツゴロウさんがチャレンジです!!



Visual Basic

 

Private Sub グレゴール_ザムザ

  Dim Ret As Boolean ' 戻り値

  If Time = #07:00:00# Then

    Ret = Getup(不安な夢)

    If Me.Body = 毒虫 And Me.Height => 170 Then

      Call Me.頭_もたげ

      MsgBox Me.腹部, vbInformation

    End If

  End If

End Sub

■ダイアログボックス             [X]

(i)褐色で、弓形の硬い分け目が入っています。

           [ OK ]



ドラゴンクエスト

 

へんじがない ただのどくむしのようだ



原田宗典

 

不安な夢を見るということは、やはり不健康なことなんだなと思う。
 昨晩原稿を仕上げた僕は、崩れ落ちるようにベッドに潜り込んで惰眠をむさぼっていた。
 もともと僕は快眠快便をモットーにしている。とりわけ快眠にはうるさい。どれくらいうるさいかというと
「快眠のためなら、ムネノリ死んでも良いっ!」
とNHKの喉自慢で、全国のお茶の間に叫ぶくらいうるさい。ともかく、すんごくうるさいのである。
 だが、時折思わずどひーと叫びたくなるような夢を見ることがある。これは僕にとっては非常に悲しいことなのだ。もしバクが夢を食べるという話が本当なら、枕元に専用のスペースを準備して
「頼むからオレの悪夢を食べちくりー」
 と土下座をしてもいいとさえ思う。
 ところが今朝はそんな夢を見てしまった。ようやく昼頃夢から覚めてみると、僕はベッドの中の自分が妙におかしいことに気がついた。
 立派な中年の僕は、やはりお腹が気になるお年頃である。いつもなら
「ここにいます」
 という感じで存在を主張する下っ腹が、褐色に見えた。起きて良く見ようとすると、背中に甲羅みたいな感触までする。
「これは、昔いじめた亀の呪いではないか。ひー、亀様ゴメンナサイ」
 などと思いながらよくよく見ると、我がお腹は、茶色の蛇腹状態になっていて、腹筋運動をするとワシャワシャする。どうやらこれはいわゆる一つの「蟲」であるようだ。
 いきなりカフカの名作の主人公にされてしまった僕は、いきなりi-modeを手渡された猿のように困惑してしまった。そりゃ若い頃は小説の主人公になりたいと思ったこともあるけど、モデルがあるではないか。「若きウェルテルになっちゃうもんねもんね作戦」ならぜひとも実行したいが、「ムネノリ『蟲』になっちゃいました大キャンペーン作戦」では格好がつかない。
 ともかくワシャワシャとベッドを這い出し、トイレでウンチョスを投下している間に悩みまくった挙げ句、とりあえず
 「悩んでもしかたないもんね」と結論を出した僕はこの原稿を書くことにした。
 虫になってみると、手が4本使えるのでワープロを打つのが楽なことが分かった。こうしてみると虫でいるのも悪いことばかりではないのだが、友人達からムシされたりするんだろうかなどと、困惑することしきりである。
 とりあえず、今年のお中元に殺虫剤はやめてほしいなあ。



readme.txt

 

[ザムザ] Ver. 1.00 

[ザムザ]をダウンロードしていただき、ありがとうございます。m(__)m 

[ザムザ]は人間(*.men)を虫(*.bug)に変換するためのソフトです。
bug形式といっても、今の所対応しているのは毒虫(^^;だけなんですが、できるだけ早い内にVerupして他の形式にも対応させたいと思っています。 

・使用方法
men形式の生物をベッドにドラッグアンドドロップして下さい。
[ザムザ]が自動的に起動してbug形式への変換が行われます。

・注意
・このソフトを使って起こった問題について作者は責任を負いません。



ファミ通ゲーム帝国

 

●毒虫でした。(秋田県 グレゴール・ザムザ)

●貴様は意味不明であり、ちょっと頭を触られたので怖くて威嚇の触覚だしたら元
 に戻らなくなり、そしてそのまま渇いてゆけ。



養老孟司

 

ある朝、嫌な夢を見た。眠りから覚めた。自分が一匹の節足動物になっていた。節足動物は外骨格である。外側の殻皮が人間の骨に該当し、筋肉は殻の内側に付着する。ともあれ、私は好きな甲虫類に変身できたことを喜んだ。さっそく頭を25度程もたげ腹部の観察をしてみた。毒虫と判断できるが、解剖してみないことにはその毒素の種類が分からない。



サン・テグジュペリ

 

 へんな、いやな夢を見て、ぼくは目をさましました。すると、
どうでしょう。おどろいたことに、ぼくの背中は固い甲羅に、
腹は褐色の、たくさんのふしになっているではありませんか。
 ぼくは、びっくりぎょうてんして、とびあがりました。
なん度も目をこすりました。けれども、ぼくはまちがいなく、
毒虫になっていたのです。この本のはじめの絵をごらんなさい。
これが、ぼくがあとになってかきあげた、一ばん上できの、
その毒虫の肖像です。



小沢健二

 

不安な夢に急かされて
僕らは朝には気づくだろう
青いギンガムチェックのシーツだろうと
僕らは毒虫になっているのさ ああ!
仰向けになって ちょっと頭をもたげて
まるくふくらんだ 節目だらけの体を見てた
君は赤い林檎を落とすだろう
そこで僕らは本当の終わりを知るのだろう



モンゴメリ

 

「グレゴール、あんたその姿どうしたの? まあ、毒虫じゃないか」
 この世の生き物に例えるなら、また毒虫といったところだろう――背中は奇妙な、つやつやした黒い甲羅で、腹にはひと筋、ふた筋、褐色で弓形の節で分け目が入っていて、おそろしく気味のわるい効果をあげていた。このときのグレゴールの姿ぐらいグロテスクなものをザムザ夫人はこれまでに見たことがなかった。
「そうなの。毒虫なの」グレゴールはうめいた。「ああ、母さん。どんなにあたしがみじめだか、わかってもらえないと思うわ。こればっかりは想像でもどうにもならないわ。『さあ私の体は手が二本足が二本で、直立歩行によって移動するのだ』と思いこもうとしてもやっぱり毒虫だということを承知しているんで、胸がはりさけそうになるのよ。生涯の悲しみとなることでしょうよ」



結構お腹一杯ですが、続きがあります。
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