2007年6月,制度設計や具体的な内容が示されないまま2009年から教員免許更新制を導入する教員免許法が改悪(以下,改正と表記)されました.その後,中央教育審議会教員養成部会において更新講習の内容および終了認定の在り方など,制度の具体的運用について検討が行われ、12月に「教員免許更新制の運用について」の報告がまとめられました.2月には,この報告をもとに「教員免許法施行規則改正案」が示され,パブリックコメントの募集を経て,3月には施行規則が改正されようとしています.
「多様な講習内容・受講方法」,「現職研修との整合性」,「講習受講の費用負担」など,国会審議での附帯決議について時間をかけて慎重な議論を求めるとともに,拙速な導入は教職員の多忙化に拍車をかけ,学校現場に混乱をもたらすことになります.今必要なことは,教職員の多忙化解消や子どもと向き合う時間の確保であり,学校現場の実態に即して「教員免許更新制」をとらえることです.
■免許更新制は,教職員の個人資格だけの問題ではなく,学校現場に大きな影響を与える制度です.今必要なことは,免許更新制ではなく,子どもとじっくり向き合うことのできる学校現場の体制の確保,狭義の学力ではなく学ぶ意欲を喚起するゆとりと豊かさのある教育環境の提供,そのための教育制度と教育内容の点検・検証です.
■教職員の資質・専門性の向上は,10年に1度の講習によってなされるのではなく.学校現場における教職員同士の日々の学び合い・授業のフィードバックなどの同僚性,日常的な研修や研究,子どもたちとの教育活動,地域・保護者とのつながりなどによって図られます.
■教員免許状に有効期限が設けられ、10年ごとに更新が義務づけられることは,教職への魅力の低下や人材離れ,教員不足を招くことが懸念されます.実際,一部の大学では教職課程を選択する学生が以前より減っています.
■国会の附帯決議に盛り込まれた「受講に伴う費用負担の軽減」,「受講者のニーズに応じた講習内容」,「現職研修と更新研修との整合性の確保,10年経験者研修のありかた」などについて十分に検討した上で,それらの内容が反映された制度とならない限り,拙速な導入を行うべきではありません.
確かに多くの学校で指導に困難を抱えている教師が存在する.これらの教師たちは「不適格教師」なのではなく,援助と研修を必要とする教師と言ってよいであろう.また,慢性的な過重労働によって心身に不調をきたす教師が増加している.彼らも「不適格教師」なのではなく,労働環境の正常化と休養を必要としている教師たちである.これらの教師にとって教員免許更新制は何の役にも立たないばかりか,免許更新制によるいっそうの負担によって事態を悪化させる危険さえある.
問題のひとつは,今日の学校が一人の教師の不調にも耐えられないほど余裕のない組織になっていることにある.誰か一人でも心身に不調をきたし,指導に困難を抱えてしまうと,現在の学校はパニック状態に陥ってしまう.一人が仕事を休めば、その分の授業を残った教師がやることになる.この人員配置における余裕のなさが,いっそう教師の日々のストレスを増大させ,徒労感と疲労感を強めている.せめて年次有給休暇が取れるだけの余裕が生まれるくらいの教員増を実現し,学校内の人員配置における校長の裁量権を拡大することによって,柔軟な学校経営を実現する措置が求められている.
免許更新制の導入は,その根拠がなく,必要性のない改革と言ってよい.今日の教育改革の弊害の一つは,ほんの一部の現象や問題だけが誇調され,すべてを対象とする不必要で大掛かりな改革が行われることにある.免許更新制はその典型である.免許更新制を必要とする教師は0.1%に満たないにもかかわらず,すべての教師を対象とする制度が導入されるとすれば,その資金とエネルギーの損失は計り知れないほど大きくなる.しかし,ほとんどの教師は免許更新制に反対している.教師たちはこの改革を,教師バッシングの一環であり,メディアによって増幅された教師に対する不信感の帰結であると認識して暗澹たる思いにとられている.免許更新制の導入が教師たちに与えている精神的ダメージによる損失は計り知れないほど大きいと言わざるを得ない.
教育再生会議による教員免許更新制度導入の決定を受けて,中央教育審議会と文部科学省は,この改革を「不適格教師の排除」から「現職研修の充実」へとシフトさせた改革を準備している.免許更新制を積極的に活用し,都道府県教育委員会と大学との協力関係を築いて,10年ごとに教師の力量の向上をはかるシステムの構築である.「現職研修の充実」を追求する改革は「不適格教師の排除」を求める改革よりもましとはいえ,以下の理由で決して望ましいものとは言えない.
○この改革を遂行する財源と人員の問題である.10年に一度の免許更新の講習を実施すると,毎年,各学校の平均10分の1の教師が講習該当者となり,それらの教師は現在の初任者研修の教師と同様に相当の日数を講習会への参加にあてることとなる.この制度の企画と運用と評価にあてる時間と労力を考えると,実際の負担はそれ以上になる.しかし,この改革に必要な財源と人員はほとんど準備されていないのが現実である.それどころか,この改革を遂行する各地方自治体は財政危機に苦しみ,人件費の大幅削減を余儀なくされている.もし財源も人員も十分に補充されないまま改革が断行されると,各学校はパニック状態に陥るであろう.現在でさえ、出張が多い日などは残された教師の負担は大きいのである.
○この改革で教育委員会と大学との協力関係を強めることは有意義と言えるが,講習を引き受ける大学において財源と人員の補充が行われない限り,大学の関係者の負担を強いるだけでなく,質の低い劣悪な講習が蔓延し(おそらくそうなるであろう),講習を受ける教師と講習を行う大学関係者に疲労感と徒労感だけが残る効果の乏しい研修になりかねない.実際,講習を引き受ける大学の教育学部は,毎年,学生数の数倍から10倍もの教師に講習を実施することになる.どの大学においても教員養成に携わる教師は,限界に近い多忙な仕事をこなしている.そこに加えて,免許更新の講習が追い打ちをかける.講習を行う大学に対して,多額の予算措置と多数の人員増を行わない限り,これらの講習が講義形式一辺倒の効果の薄い研修に終始することは必至である.しかしその措置が講じられないまま免許更新制は導入されようとしている.
第166回通常国会で学校教育法の一部が改正され,副校長,主幹教諭,指導教諭の新しい職の設置が可能になった.2008年度政府予算において文部科学省は「新しい職」の新級の財源や配置に伴う定数改善を要求している.また,ここ数年,自治体独自に「主幹」等の新しい職の設置が進んでいる.
2007年度,6都府県で「主幹制度」等が実施されている.「主幹」等の役割については自治体により異なるが,管理職の補佐役や管理職と一般教職員との調整役と位置づけているところが多くなっている.さらに「スーパーティーチャー制度」等についても2006年度,9県・1政令指定都市で運用されている.主幹等について「新たな級」をもうけている自治体は,2007年度,小中高とも4都府県に及んでいる.
政府は第166回通常国会で副校長,主幹教諭,指導教諭を2008年度より配置できるようにするための学校教育法を改正した.これらの「新しい職」は,法令上「任意配置」すなわち各都道府県の判断によって「置くことができる」職として位置づけられている.