郵便代

200円

07年01月31日(発送日)


 2ヶ月前に北海道で貰った巨大ゴボウを、ウチで味噌漬けにし、数日前、少量を郵便にて送り返す。よほど地味が肥えていたのか、このゴボウ、金時ニンジンほどの太さがある。4ツ割にして漬け込んだものの、なかなか味噌が回らず、最近、ようやく食べられるようになったのだ。
 
 送ったはよいが、ビニールパックに空気を抜いて封印し、そのまま薄い茶封筒に突っ込んだので、無事に届いたかどうか気になる。で、今朝、電話で先方に確認したら、「郵便局に出向いて受け取ってきた」とのこと。ん? 封筒の厚みは、1.5cmくらいだったぞ。標準的な郵便受けの口を通らない筈はない。なのに、何と、「パックがパンパンに膨らんでいて、封筒から出すのも大変だった」という。思わず、「えーっ、どうして?」と聞き返してしまう。が、話しているうちに、類似の記憶にぶち当たった。
 
 以前、外出から戻ってみると、冷蔵庫が半開きになっていた事がある。ありゃっ、閉め忘れ?と訝りつつ、扉に手を当てたら、次の瞬間、意外にも強い力で押し返された。「この反抗的態度は何ならん?」と中を覗いてビックリ。風船状態のビニール袋が顔を出しているではないか。生協から届いたトロロ芋の袋だ。「開封して保存するように」との但し書きがあったものの、理由が判らず、そのまま放り込んだのだった。トロロ芋が自家発酵するとは知らなかった。そして、袋の中では、一旦発酵が始まると、極限まで膨らむものらしい。
 
 今回の膨張も、恐らく、中味の味噌が原因に違いない。しかし、この「刑務所謹製味噌」を買ったのは、確か5年以上も前のこと。塩が強過ぎ、上手く使いこなせず、出番のないままになっていた。只ならぬしょっぱさは、仕込み作業中の、シャバを恋う囚人諸君の落涙の産物か? あるいは、「過酷な囚役で塩分不足に陥らぬよう、ムショ飯の味噌は塩たっぷりで」との、現場班長の親心? いずれにしても、もう発酵は終了しているだろう、と今回、密封パックにしたのだった。
 
 素人には、発酵の世界はナゾだらけだ。はかせ鍋の虎の巻であり、シャトルシェフを含む保温調理全般のバイブルでもある、『お鍋にスカートはかせて おいしさ大発見!』(小林寛 早稲田大学名誉教授 著)を紐解くと、「菌は、二酸化炭素の濃度が高いほど盛んに増殖する。菌自体が二酸化炭素を吐き出すから、密封容器内の滅菌が不十分だと、途中から急激に料理の腐敗が進むこともある」といったニュアンスの記述がある。みそゴボウのエアバッグ現象は、これで説明が付く。
 
 しかし、正反対の事例の経験もある。その昔、ヒマラヤ山中のレーの町で、納豆を作ろうとして失敗したケースがそれだ。圧力鍋で充分柔らかにした大豆に、フリーズドライの納豆を砕いてまぶし、太陽光で暖めて発酵させようとの目論みだった。けれど、出だしは順調なのに、毎回、途中でダメになってしまうのだ。氷河の懸かる山々を眺めながらの納豆ご飯は、結局、マボロシで終わってしまった。
 
 最近、知ったところでは、通気性を良くしてやるのが納豆作りのポイントらしい。手頃なヒーターもないレーで、私は、大豆を入れたステンレス製ボールの口を、ビニールシートでピタッと覆って日向に出していた。容器内の酸素を使い切った菌は、可哀想に窒息死してしまったのだろう。
 
 菌には好気性と嫌気性の両者がいる。だとすると、同じ大豆を食物としながら、納豆菌は前者で、味噌の麹菌?は後者って事なのか。ならば、パック入り味噌には、なにか菌の繁殖を抑える特別の処理が施されているのか。菌と酵母の区別も、私には良く判らない。目に見えない生き物との付き合いは本当に難しい。
 
 今回、麹菌以外のものが爆発的に増殖した可能性も考えられる。一応、先方にも「味がおかしいようなら、食べないでね」と、念押ししておく。私の遊び仲間には、人類の食卓の多様化に貢献するタイプ(『鮭甘口切り身2切れ』参照)が多い。なので、警告など殆ど無意味なのだが‥。