通天閣展望券

600円 

[1月16日]


横浜から5日ばかり里帰りしているシショーと、男二人で通天閣に登る。小学校の遠足以来、彼は2度目の通天閣だという。「あん時はビックリしましたよー。切符のモギリやってたんが小学生ぐらいの子供やったんで」 いくら大阪でもそんなバカな、と辺りを見回すと、従業員らしき中年男が立っている。「あの顔に見覚えない?」「うわっ、面影残ってるわ〜」 そんな会話を交わしながらエレベーターへ。
初代の通天閣は、戦争中に解体されて供出されたという。現在の建物は戦後の再建だが、エレベーター内から間近に見る骨格は、城東の陸軍工廠の焼跡から拾ってきた鉄材で組み上げたのではないか、と思えるほどボロい。東京タワーに登ったことはないけれど、足のすくみ具合では文句なくこちらの勝ちだろう。
エレベーターはノロノロと展望台に到着。浪速モンの習性として、目は自然に大坂城を探す。あった。縮んだ訳でもなかろうに、何とも小さく、ビルの足元で肩身が狭そうだ。子供の頃に読んだ絵本、『ちいさなおうち』を思い出す。
歴史の本によると、現在の大坂城は3代目だそうである。秀吉が築いた初代の城は夏の陣の戦火で焼け落ち、徳川の二代目大坂城は落雷で焼失した。その後、昭和天皇の即位を記念して再建されたのが現代の大坂城にあたる。が、心象的には四代目だ。昭和の大坂城は、1955年、ゴジラの一撃で木っ端微塵に吹っ飛んでいる。
展望台を階段でワンフロア下ったところに、思いがけず喫茶コーナーらしきものがあった。コーヒー300円。シショーとテーブルを挟んで腰を降ろす。
普通、『店』と名のつくものには、必ず『店コンセプト』が認められる。無言のうちにも、「うちはこういう店です」という意図が見え隠れするものだ。しかし、ここにはそれが全くない。フロア隅っこの空きスペースに、テキトーにテーブルを並べました、といった感じ。ここまで自然体で無抵抗で自己主張のない造作というものは、もはや解脱の域と云ってもよい。世の中の何もかもが作為的で演出過剰になってしまった昨今、この空間の存在はありがたい。
所在無く下界を眺めていると、造成中の宅地のような荒地に、何か大きな茶色いケモノが佇んでいる。はて、ホームレスが空地で牛でも飼っているのだろうか。ぼんやりそんなことを考えながら視線を移す。と、また、別の形をした動物が目に入った。シショーにも注意を促す。しばらく目を凝らしていた彼が、突然叫んだ。「シマウマですよ、あれ」 何のことはない、そこは天王寺動物園だった。上から見ると冬枯れの園内はあまりに殺風景で、とてもそうとは見えないのだ。
約2時間ばかりボーッとした後、「行ったことない」というシショーのために、四天王寺へ向かう。途中、天王寺公園の路上住宅が微笑ましかった。冷蔵庫の箱を倒したような造りながら、カーテンの下がるガラス窓に、ずらりと小さな人形が並んでいる。入り口にはピカピカの南京錠まで掛かっていた。肝心の四天王寺の回廊内部は、入場料200円ナリ。ピカピカの境内には大して見ものもなさそうなので、二人で回れ右し、アベノ地下街の『古澤』でラーメンを食べる。

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