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心電図が終わって支払いも済ませたら、さすがにドッと疲れが出た。見れば、奥のコンビニ前の空きスペースに、丸テーブルが3つばかり置かれている。いずれも先客アリだが、窓際の円卓に空席がある。ワタシは、ペットボトルと紙コップを前にしたジイさんに一言断って、その向かいに腰を降ろし、ホッと一息つく。
実は、こういうこともあろう、とダシを仕込んだ魔法瓶をデイパックに忍ばせてきた。早速お椀を取り出し、そこに味噌を絞り出してダシを注ぎ、箸で軽く混ぜる。たちまち、薫り高い味噌汁が完成した。煮干がそのまま具になった。
味噌汁はリラックスの妙薬だ。変な缶コーヒーより、よっぽど安静効果が高い。この香りと味は家庭の夕食に繋がっている。魔法瓶1本分、お椀で2杯飲んだら、すっかり気分が落ち着いた。
その時、向かいのジイさんの腕が当たったらしく、紙コップが床に落ち、弾みながら足元に転がってきた。それを何気なく拾い上げて、ギョッとする。外側に目盛がプリントされ、しかも、名前を記したラベルまで‥。が、今さら投げ捨てる訳にも行かず、彼に手渡す。受け取ったジイさんは、「どうも済みません」と詫びつつ、ガサガサ荷物をまとめて立ち上がり、行ってしまった。ワタシは濡れた左手を宙に浮かせたまま、思案する。こういう場合、考えられる可能性は2つ。
[その1] サンプルを採取し、窓口に提出する前に、ここに立ち寄って一休みしていた。
[その2] サンプル提出後、中身を別容器に移してカラになった紙コップを、「まだ使えるじゃないか、捨てるなんて勿体ない!」と奪い取り、ここで湯呑み替りにしていた。
ジイさん、少々お疲れのご様子だったから、「その2」より、「1」である可能性が高い。なるべく左手を使わぬよう注意して辺りを片付け、ワタシも席を立つ。正面玄関から建物の外に出ると、ああ、空気が旨い。冬晴れの空を仰ぎながら深呼吸する。気分は、ツトメを終えた受刑者だ。
「長い間、お世話になりました」「もう戻って来るんじゃないぞ」
ってなワケにはいかない。本番の検査が3週間後に控えている。それにしても、下手なテーマ・パーク顔負けの刺激的な半日だった。そう思えば、2060円は安い。