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マイティ・ユンとは、平たく言えば蚊取りラケット。テニスのそれより一回り小さく、ガットの替わりにピアノ線が張られている。ここに触れた蚊を高圧電流で一撃する、蚊専用のスタンガンだ。
きっかけは、昨夜の蚊との攻防戦。どこからか多量に侵入し、本2冊で片っ端から叩き潰す(素手では手が腫れ上がる)ものの、30匹を超えたあたりでギブアップ。かつてメキシコの宿で、『週間現代』2冊を手に40匹以上殺したことがあるけれど、それに次ぐ記録だ。今回は使用した本がA5版と小さく、効率が悪い。やむなく、最終兵器のスプレー式殺虫剤を少量散布する。網戸は穴だらけ。オマケに窓枠か網戸のどちらかが変形していて、キチンと閉まらない。出入り口の木の扉にも大穴が開き、おもての景色が見える。さらに床が部分的に抜けており、板切れを載せて塞いではいるが、カタチだけといった感じ。どこからだって侵入できる。
それにしても、30匹以上というのは、今回初めて。あまりに後から後から現れるので、一瞬、壁から湧き出してくるのか、と不気味さを覚えたほどだ。優秀な指揮官に率いられ、映画『大脱走』みたいに一列縦隊となって、小穴から続々と入って来たのかも知れない。
マイティ・ユンには充電式と乾電池式がある。使い物になるようなら日本に持ち帰ることも考え、後者を探す。この道具、タイ人に訊けば誰でも知っているポピュラーな商品なのに、なぜか置いている店は少ない。あったとしても奥の方に仕舞われていて、埃を被っていたりする。敬虔な仏教国であるタイでは、たとえ蚊といえど殺生は好まない、という。その影響なのだろうか。ヒトなら簡単に殺すのに。
何軒か店回りした結果、造りのしっかりしたものを発見。100バーツで購入する。宿まで待ち切れず、帰路、インターネットを使わせてもらいに立ち寄ったオフィスで効果を試してみる。実は、ここの階下のレストランで、ラケット片手に従業員が蚊を殲滅してゆくのを目撃して、私も欲しくなったのだ。が、なぜか彼女らのように一網打尽とはゆかない。フォア、バック、ボレーと色々試してみたけれど、確率は3匹に1匹といったところ。そういえば中学時代、私は所属していたテニス部で一番ヘタクソだった。ボールに当たらぬのものが蚊に当たる道理はない、ということか。‥ああ、タイまで来て、いやな過去を思い出してしまった。
[追記] その後、マイティ・ユンの扱いには慣れた。左右の視力が極端に違い、その結果、距離感に齟齬をきたすのが原因だったのだ。同時に、蚊の方も学習したらしい。ラケットを手にすると、すぐさま姿をくらませる。そのイタチごっこは現在も続いている。