真昆布各種(×6)・昆布巻 その2

4620円

05年12月29日


 いま一つの思案のタネは、全く別の理由による。2年ちょっと前だったか、古い商店街の中の、さる有名な塩昆布屋さんを訪ねたことがある。北海道で世話になる友人宅への、土産の調達が目的だった。陳列台を目で追って行くうちに、さまざまな加工品に混じって、中にダシ昆布があるのに気付いた。店主に訊ねると、「ウチでは、産地から取り寄せた尾札部などの最高級の天然真昆布を更に吟味し、塩昆布にしている。その時にハネられたものを、ダシ昆布として出してます」とのこと。ハネられたと云っても、もとは極上品だ。さぞかし美味しいダシが取れるに違いない。そう考えて、迷わず2パックを買い求めた。
 ところが、持ち帰って試してみると、思いがけず期待外れだった。そのまま食べるぶんには穏やかで口当たりが良いのに、ダシにすると何かが物足りない。さまざまな旨み成分のうちのどれかが足りず、トータルとしての味のまとまりを欠いている、といった印象なのだ。どうやら、塩昆布として最高のものが、必ずしも最上のダシ昆布とは限らないらしい。醤油や味醂などで煮込んで味を完成させる塩昆布の場合、ある種の旨み成分が強いと、逆に足を引っ張ってしまうのかも知れない。だとすると、塩昆布屋さんではなく、やっぱりダシ昆布は乾物系の専門店で購入すべきなのか‥。
 そんな記憶があって考え倦んだのだけれど、いつまで思案していても始まらない。覗いて見ると、店内の感じはなかなか良さそうだ。私は中に入った。そして、ご主人から簡単な説明を聞いた上で1袋の勘定を済ませ、その場で開封して一片を口に含んでみた。
 ところで、使用目的を確かめた上で、店主が薦めてくれたこのパック。実は、ハギレの部分の袋詰め。1枚の昆布の葉を、肉厚の中心部分と、側縁および先端とに選り分けた、その後者を集めたものだ。当然、色は悪いし身も薄い。だから何の期待もしていなかった。が‥、おーっ、これはこれは。あの××屋の2等検より上ではないか。それで「150g入り1袋が525円」だなんて、破格も破格。××屋の3分の1以下だ。さすが店主オススメだけのことはある。
 店のご主人の話は興味深かった。確かに、今年の尾札部の昆布の出来は惨憺たるものだったらしい。が、あの浜だけが良質真昆布の産地ではない。尾札部以外の仕入れルートも持っている店なら、良い品を集められる筈だ。それに、あそこの業者の中には、ブランドの上にあぐらをかき、阿漕なマネをする輩がいる。1等検の中に、平気で2等検を混ぜ込んだりするんだ。
 そんな昆布業界の現状を、彼は嘆かわしそうに語ってくれた。聞きながら、私は少々不安になった。見ず知らずの一見客に、そこまで裏情報を公開してしまっていいのか、という心配ではない。真実が世間に広く知れ渡った方が、業界の歪みの是正にはなるだろう。そんなことより、熱く語るご主人とは対照的に、ショーケースの向こう側に並んで黙々と作業を続ける店員3人の沈黙が、私を落ち着かなくさせたのだ。『また始まったで』『そんなんまでバラして、エエんかい』『この客もモノ好きやなぁ』 テレパシーか、と思うくらいにハッキリと、頭の中に彼らのボヤキが響くのだった。

 その夜、友人と夕食を摂りながら、私はゲットしたばかりの昆布を自慢した。話題が××屋主人への不服表明の一件に及ぶと、笑いながら彼女は云った。「そんなん、『はんなり』云わへんで。言葉の意味、知っとった?柔らかさの中にも華があるのを『はんなり』云うねんで」

 そうか。私のクレームが薔薇だとすれば、花がなくってトゲばかり、ということか。