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キタで友人と会う約束があり、歩いて落ち合い場所に向かう。市内をテクテク縦断したのは、決して交通費をケチるためではない。待ち合わせ時刻を指定する先方からのメールの「午後、ゆるゆるで」のニュアンスがよく判らず、「『昼下がり』くらいの意味だろう」と解釈して家を出たら、追っかけて「6時に」の連絡が届いた。まだ3時間半以上もあるが、引き返すのもシャクだ。天気も良いし、運動不足解消を兼ねて歩くことにする。途中、あちこちに残る年代物の建物を眺めたり、気になる路地を覗いたりしながら、そのままプラプラと北上を続ける。
目的地まであと一息。陽も大きく西に傾いた頃、ふと一軒の昆布屋が目に入った。店の前にも商品が並び、自然に足が止まる。見たところ、塩昆布やおぼろ昆布など、加工品がメインらしいが、袋詰めのダシ昆布も置かれている。立ち止まったまま、ワタシは思案した。
思案には、2つの理由がある。一つ目は、早急に新しい昆布屋さんを開拓する必要に迫られていること。実は一昨日、10年近く利用してきた例の店に、三行半を叩きつけたのだ。直前までそんなつもりはなかったのだけれど、近所を通過中に、突如、その衝動が突き上げてきた。そこで取り敢えず店先に立ち、念のため商品を検分する。やはり前回のままだ。サエない品々が、相変わらず高い数字の帯を巻かれている。
品物を凝視していると、目の前のガラス窓が開き、店のオヤジが顔を出した。彼に向かって、私は静かにゆっくりと、「10年前に較べると、アンタんところの品はガタ落ちだ。特に先々月に買ったものは最低で、まるで話にならなかった。それで値段が1.5倍だなんて、全く納得がゆかぬ。これが老舗のやることか!?」というような疑問を、冥王星から太陽に愛を囁くように、遠慮がちに、遠回しに、はんなりしたコトバを選んで突きつけた。
このクレームに対する反応を、私は2通り予想していた。「文句あるんやったら、もう来ンといて。買うて貰わんで結構や!アンタだけが客やない!!」と突っぱねて居直る。さもなくば、「ウチもなァ、申し訳ないなァ思いもって売ってますねん。そやけど、どうしようもおまへんのや〜」と抗議を受け入れつつも、泣きで躱しにかかる。しかしオヤジは、驚きの表情に続いてムッと不快な顔になりはしたが、途中でくるりと背を向けると、黙り込んでしまった。ハハァ、敵前逃亡か。昆布屋としての誇りや気概を、完全に失っとるな。私は落胆した。いずれにせよ、この路地は通っても、客となることはもうなかろう。そんな感慨に浸りながら、店を後にしたのだった。