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高速バスで伊那谷の駒ヶ根まで行き、中央アルプスの山奥に分け入って、霊薬となる山草を探す。熊の姿に怯えつつ藪を漕ぎ、眼下の激流に震えながら絶壁をよじ登る。・・・なんて書ければ最高だが、実際には、聖龍山人が呼んでくれた『アヤさん』という若い快活な女性の運転で、ポイントを案内してもらった。採集場所も深山幽谷などではなく、町の外れの山道みたいなところだ。
この植物、巷では毒草とされているらしい。移動中に、「触っちゃダメよ! 毒だから」という忠告が、彼女の携帯に母親から入る。道端で摘んでいると、通りすがりの車が、スピードを落としては我々の様子を窺ってゆく。「生きてても何もエエことあらへんし、もうこれ喰うて死ンだろ思てますねん」 そう愚痴りつつ運転席に迫ってみようか、と閃いたが、やめた。ハンドルを握る人々は、「ジョーダンでした」が通らないのは一目瞭然の、いずれも素朴な顔立ちだった。
薬酒は、6ヶ月ほど漬け込んで完成する。塗れば、切り傷、擦り傷、打撲に効き、飲めば循環器系の疾患に効果があるという。
実は、この植物、伊那谷まで行かなくとも、その辺に生えている。私は、新宿高校のグラウンド脇の側溝に自生しているのを見つけたことがある。一瞬、手が伸びかけたが、思いとどまった。付近は青空生活者のテリトリーだ。その一角にあって、これだけ尿意をそそる側溝が無事でいられる筈はない。伊那谷のものよか遥かに大粒の実が、何よりもそれを雄弁に語っている。その分、薬用成分を豊富に含んでいるかも知れない。が、それを摘み取るだけの度胸は、さすがに私にはなかった。