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最近の冷え込みで、外出時、つま先が凍える。一般的に、私のようなビンボー人は栄養状態がよくない。必然的に血行も不良で、暖房の効いた屋内に入っても、なかなか感覚が戻ってこない。そこで、使い捨てカイロ『ホカロン』を靴の中に突っ込むことにした。
調べてみると、靴用の使い捨てカイロもちゃんと売り出されているが、ノーマルなタイプに較べると割高につく。靴の中にも収まる、ノーマルの『ミニ』で試すことにする。
ところでホカロンミニの発熱持続時間は約6時間。しかし、実際には12時間以上温かい。一方、私の外出時間は1回あたり1〜3時間前後。そのために毎回一コ開封するのはもったいない。ホカロンの熱源は、鉄粉が空気に触れて発する酸化熱だそうだから、再度密封すれば反応は止まるに違いない。使いかけのもので実験してみると、予想通りに発熱はストップして、何の問題もなく保存できることが判った。これで、多少は資源を有効に活用できる。
日中の足先の凍えは解決したが、まだ、明け方の冷え込みからくる疼痛が残っている。こういう場合、世間一般では電気毛布などを買いに走るのであろう。しかし、ちょっと足先が冷えるからと云って、いちいち原子力発電所の世話になるのは面白くない。
こんなものは湯たんぽが1コあれば解決する。ただ、新たなガラクタは増やしたくないので、『押し入れ地層』を発掘し、15、6年前のジュラ紀あたりから化石化したグランテトラを掘り出す。グランテトラは、強力なバネ仕掛けで口金が閉まる、登山用のアルミ水筒だ。就寝前、熱湯1リットルで満タンにし、手拭いを二重に巻き付けて足元に突っ込んでみる。
威力は予想以上だった。一夜明けてもまだまだ温かい。おかげで、明け方、安眠を冷気で中断されることはなくなった。また、目覚めた時に体のあちこちに感じていた鈍い痛みも消えていた。これまでは縮こまった姿勢で眠っていたため、筋肉に要らぬストレスが掛かっていたらしい。
ところがそのうち、徐々にグランテトラが凹んできた。考えてみれば、これは当然の現象だ。満タンにした熱湯は、水温が下がるにつれ体積が収縮する。内部に真空部分ができると、水筒は大気圧に抗し切れずに潰される。何度か繰り返しているうちに、グランテトラは踏んづけたビール缶のように情けない格好になってしまった。
容器が潰れると容量も減り、その分、保温力も落ちてくる。何が手を打たねばならぬ。ちょうど信州・伊那谷に棲む聖龍山人に電話を入れるついでがあり、うまい対策がないか訊ねてみた。かつて日本でも有数のクライマーだった彼なら、冬山で水筒を湯たんぽ替わりに抱いた経験があるだろうし、へしゃげた時の復活法も知っているに違いない。
そのヨミは当たった。事情を説明し始めた途端、「水筒を満タンにして、冷凍庫で凍らせなさい」という回答が返ってきた。これは、山ヤの間では一般教養だという。
早速やってみる。凍結時の膨張で口金が飛ぶと恐いので、最初は水量控えめでスタートする。と云うのも、この高価なフランス製水筒は、現地で長考の挙句に購入し、ヨーロッパから日本まで約1年がかりで陸路を旅した時の相棒だ。一度、パキスタンのクエッタで泣き別れになり、その後、数百km離れたラワルピンジ郊外で、奇跡の再会を果たした道具でもある。塗装も剥落した満身創痍の姿とは云え、不注意な扱いで壊したくはない。水量を調節しながら、慎重に凍結解凍を繰り返す。
その結果、一時は0.7リットル近くに落ち込んでいた容量は、元の1リットルを通り越し、1.2リットルにまで回復した。やれやれだ。この防寒対策2本立てで、ひたすら春の訪れを待つ。