電話通話料

25.5円

[5月18日]


 コピー機のトラブルに癇癪を起こした男が、機械ごと階段から突き落としてブッ壊し、中から用紙を取り出す、という白人モデルを使った缶入りコーヒーのCMを、最近よく目にする。なんとも後味の悪いストーリーだ。捨てられているモノでも、拾ってきて修理したくなる私には、あの光景はつらい。繰り返し修理を重ね、「これ以上どうにもならない」というところまできて初めて、長年の労をねぎらわれつつ、道具は引退してゆかねばならぬ。そういった、ヒトがモノに対して抱く感謝の念を、あのCMは真っ向から否定している。
 それでなくともOA機器の更新が早くなり、その廃棄物処理は社会問題にもなっているではないか。エコロジーの意識が高いヨーロッパでこんなものを放映すれば、非難ゴウゴウ、企業イメージは回復不可能なほどのダメージを受けるだろう。まあ、日本でも、このCMは遅かれ早かれ打ち切りになるに違いない。
 と思って見守っていたら、いつまで経ってもその気配がない。世間も鈍感なものだ。こうなれば自分で何とかするしかない。
 という訳で、午前9時半というゴキゲンな時間帯を狙い、広告主の企業の広報に電話を入れる。応対に出た担当者は、クレームの対応に手慣れたベテランらしい。一言も反論することなく、「なるほど」「はい」と、ひたすら御意見拝聴の構え。私にはとても出来ない芸当だ。が、どこかに事務的処理といったクールな匂いが漂ってくる。どうもノレンに腕押しで、真剣に聞いてくれているかどうか怪しい。
 そこで、ちょっと後ろめたくはあったけど、角度を変え、イジワルな質問で攻めてみる。
 「あのCMは、『当社の自販機で、商品も出ないし金も戻らないという場合、自販機ごと階段から突き落として、中から商品取り出して戴いて結構です』というブラックなメッセージとも取れますけど‥」
 「それは‥」
 さすがに担当者も言葉に詰まった。エコロジーレベルでの話にはまるで他人事だった反応も、微妙に変化し始めた。結局、「お客様のそういう声があるということで、打ち切りを含め、社内で検討してみる」という前向きの返事をもらって、電話を切る。
 その後、聞いていた放映予定期間のかなり手前で、このCMは見なくなった。打ち切ったとすれば賢明な判断だ。彼の話では、色々なご意見が寄せられている、とのことだったから、私一人のクレームで決定した訳ではないだろう。
 それにしても、CM制作者の認識の低いのには恐れ入る。CM業界には、『自分たちが時代を創っている』という自惚れ丸出しの人物が少なくない。が、実のところ、彼らがやっているのは、時代の後追いに過ぎない。こういう人々がCMを作っているうちは、この国もダメだな。‥と私は思う。